―『私』は紛れも無く強かった。
大地を踏みしめれば砕き、翼を揺らせば木を薙ぎ倒す大嵐が吹き荒れる。口からは全て溶かす豪炎を吐き、その爪は鋼鉄を容易く砕く。それでいて知能も高く、操る魔術は数え切れない。鱗は硬く並の剣では傷一つ着けるなんて不可能だ。
―『地上の王者』
そう称されるのが『私』であり、『彼女達』であった。
「……詰まらん」
そんな私がいるのは埃に塗れた石畳が敷き詰められている幅広い一室だ。元々が訓練室か何かだったのだろう。所々、人を模した人形がそこかしらに転がっている。そして、私の目の前には四人の冒険者が立っていた。そこそこの手練なのだろう。それぞれが手に持つ武器はしっかりとしており、身を包む防具も一目で高級品だと分かる。隙無く私を見据え、修道服を着た女を中心に三角形の陣を敷く姿も様になっていた。
―けれども…詰まらない。
「人里に迷惑を掛ける悪しきドラゴンめ!俺たちが倒してやる!!」
私の真正面に立つ男――恐らくはこのパーティーのリーダーであろう男が高らかに宣言した。しっかりと手入れされた剣先を私に向けるその様はまるで伝説に語られる勇者のように見える。けれど、私にとって重要なのはその男そのものではない。語られた言葉の方だ。
―…別に何かしたと言うわけではないんだがな。
『悪しきドラゴン』と呼ばれるような事は何もしていない。ただ、ここで…誰一つ寄り付かない廃棄された砦の中で慎ましやかに生きているだけだ。食事も近くにある集落から奪ったりしているのではなく、近くの野生生物を適当に狩って暮らしている。私が持つ『財宝』もこの砦の中に隠されていたもので、別に誰かから奪ったものではない。それなのに『悪しきドラゴン』呼ばわりされる事に納得がいかなかった。
―まぁ…別にこれが初めてではないから良いんだが。
私がここに暮らしていると言う事を何処から聞きつけたのか、この廃れて埃塗れの砦に多くの冒険者が顔を出した。それは『ドラゴンを倒した』と言う勇名を求めての事なのか、それとも『財宝』を目当てにしているのか、私には分からない。しかし、私が歓迎されていないと言う事だけは良く分かっていた。
―まったく…詰まらない。
私は静かに暮らしていたいだけなのに、その平穏をこうした冒険者や勇者紛いの人間が邪魔をする。それがとても詰まらなく…面倒だ。
「さぁ行くぞ!皆!!所で俺、この戦いが終わったら幼馴染にプロポーズするんだ…」
「えぇ!皆さんの回復は任せてください!後で私特製のパインサラダも待っていますからね!」
「娘が結婚するまで死ぬわけにはいかないからなぁ!最初から全力で行かせて貰うぜぇ!」
「お前の父親から、お前の事を頼まれているんだ。こんな所で死なせはしない!」
『勇者』の号令に従い、パーティーが鬨の声を上げる。それを横目で見ながら、私は小さく溜め息を吐いた。装備から察するに『戦士』、『修道女』、『騎士』、そして『勇者』と言うパーティ構成。それぞれの役割を分担し、お互いに庇い合えるバランスの良いパーティーだと言えるだろう。そして、そんな連中はここまで乗り込んできただけあって私がドラゴン――地上の王者と呼ばれる種族であると知っても矛を収めてくれるつもりは無いらしい。
―まぁ…私の平穏な日々を脅かした罪は重い。
同族の中では比較的、穏やかな私とは言え、決して怒らないという訳ではないのだ。いきなり乗り込んできた悪しきドラゴン呼ばわりした罪は私としては重い。流石に殺すつもりまでは無くとも多少、痛い目を見てもらおうと私は一つ魔術を紡いだ。それに応えるように私の体は膨れ上がり、視界がぐんっと上へと引き伸ばされる。
「く…!それが貴様の本当の姿か!」
―まぁ…当たらずとも遠からずと言った所だな。
魔術を使った今の私の姿は原初の竜、すなわち御伽噺で語られるような『ドラゴン』そのものになっているはずだ。つまり、それはさっきまでの私は『ドラゴン』そのものではなかった事でもある。
―ある日、私達の姿は変わってしまった。
今までは誇り高い竜族として魔族とも距離を問っていた私達が、魔王の代変わりに寄る強力な魔力を受けて、人――しかも、メスに近い姿に変貌してしまったのだ。今でこそ魔術を使えば元に戻れるとは言え、当時の衝撃は大きく絶望と言った感情が最も適切であっただろう。特に、私は元々、オスであっただけに、かなりの時間が経った今でも、未だに馴染めない。
―まぁ、それはともかくとして。
かと言って私達が弱くなったかと言えば応えは否だ。人の姿ではブレスは吐くことはできないが幾らでも魔術で代用が効くし、その爪の鋭さも力強さ
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