その2


 
 「ふぁぁ…っ♪アズさんの今日も逞しいぃ…っ♪ちゅぷっ…♪…ひゅふぅ…ぅ♪…ぢゅるるるっ♪」
 
 ―何………だ…?
 
 唐突にそんな声が聞こえて、俺の意識はゆっくりと浮き上がっていく。深い深い眠りの底から突然引き上げられたようなその感覚は、若干、不快ではあったものの、意識が覚醒して行くにつれて腰の辺りから何か暖かい感覚が背筋を伝って登って来るのが分かった。
 
 ―何が…起こって……?
 
 寝起きの鈍い頭でそう考えるものの、今の俺には目蓋を開ける力さえ無い。俺の身体を制御する意識を、まるで眠りの底へと引きずり込もうとする手があるかのように浮上するのも遅々としていて、まだ半ば夢の中に居るようなものだ。何れはその手全てを振り払って完全に覚醒する事も可能だろうが、まだまだ時間が掛かるだろう。
 
 「ふふ…♪おっきな幹を吸われる度にぴくぴくしてますよぉ…♪今日もアズさんのは暴れん坊さんですねぇ♪」
 
 ―吸う…?何を……?
 
 そう疑問に思った瞬間、再びぢゅるぢゅるといやらしい音を立てて、俺の『腰』が吸われる。さっきより意識が覚醒した分、鮮烈に感じられるその刺激は、思わず腰を引いてしまうほどの快感を伴っていた。びりびりと甘く痺れるようなその快感に俺の身体は敏感に反応し、俺の意思とは無関係に小さく息をつく。妙に熱気が伴った吐息は本当に小さくてすぐに消えてしまうようなものだったが、俺を吸っている『相手』はそれをしっかりと聞き取ったらしい。「クス…♪」と小さく笑って、俺の腰から口を離したのが目を閉じても感じられる。
 
 「もう…♪そんなに気持ち良さそうな声を出しちゃって…そんな声聞いちゃったら甘えさせてあげたくなっちゃうじゃないですかぁ…♪」
 
 ―無意識なんだから仕方ないだろう…!?
 
 反射的に胸裏で呟いたその言葉に突き上げられるようにゆっくりと意識が浮上して行く。幾分かはっきりしてきた意識でもまだ指先は岩になってしまったかのように動かないが、目蓋だけは動かせそうだ。
 
 ―まずは…これがどんな状況なのか把握しないと……。
 
 かなり鈍った思考でもそれだけははっきりと把握できる。まだ眠っている状態に片足を突っ込んでいるままだが、自分が何をされているのか分からないと言うのは純粋に気味が悪い。そんな恐怖にも似た感情に後押しされるように、俺は目蓋に力を込め始めた。最初はまるで鉛で出来た扉のようにびくともしなかった目蓋が、意識が起きるのに従ってゆっくりと開いていくのが分かる。
 
 ―最初に見えたのは部屋の天井だった。
 
 しかも、毎朝、見上げる見慣れた天井である。俺の意識は起き始めていてもまだ瞳は眠っているのか、まだ視界がぼやけてピントも合っていないが、毎朝見ている光景を見間違えるはずが無い。ここはテスタロッサさんの部屋だと俺は自信を持って言える。
 
 ―じゃあ…さっきの声の主は……。
 
 「でも…ダメですよぉ♪だってぇ…今日のこれは御仕置きなんですからぁ…♪」
 
 砂糖菓子のような甘い甘い声は、囁くような小さなモノのはずなのに、間延びしていて耳に張り付いて離れない。まるで蜂蜜を耳に塗りつけられているかのようなその声は、甘さだけでなく、男に媚びるような魅惑的な響きも伴っている。そして…何よりその声は俺の大好きなテスタロッサさんに良く似ていた。その一点だけでも、頭の裏が痺れるような倒錯的な興奮を覚えるのに、耳から脳髄を犯されている感覚がさらに俺の心をかき乱す。
 
 ―でも…こんなテスタロッサさんの声なんて今まで聞いた事が…。
 
 濃厚な日々だったとは言え、俺とテスタロッサさんの付き合いはまだまだ三ヶ月程度だ。無論、お互いに知らない面と言うのはまだまだ沢山あるのだろう。…けれど、俺はその三ヶ月の間で…こんな淫らで胸が興奮で詰まりそうな声をテスタロッサさんが出すなんて想像した事さえ無い。だって…俺の知るテスタロッサさんはハキハキと物事を話すタイプではないが、穏やかで耳に優しい声で話してくれる人なのだ。聞いているだけで何処か穏やかな気持ちになれる…そんな優しい声の持ち主だったはずである。そんな人が…こんな心ごと犯してくるような甘い声を出すなんて、すぐに認められるはずも無い。
 
 ―そうだ…最近、オナニーしてなかったし…これはきっと夢なんだろう…。
 
 そう必死に逃避するものの、はっきりしてきた意識や鮮明になっていく3感がそれを否定する。見上げている天井は間違いなくテスタロッサさんの部屋のものであるし、微かに香る紅茶の匂いはテスタロッサさんの部屋にも染み付いているのだ。特に、腰から…いや、俺のムスコから這い上がってくる快感は身体を震わせるほど強烈ではっきりとしている。今まで淫夢と呼ばれる類のものを見た経験はあ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..20]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33