―人生という奴は時として一つの行動が雪だるま式に膨れ上がって、最初には予想もつかなかった結果を呼び起こす事がある。
運のある人間はそれを時流と呼び、その流れに乗ることで権力への道を突き進むのだろう。意思のある人間ならば、その流れを自分でコントロールできるように抗うのかもしれない。力のある人間ならば、時流を無視して思い通りに進む事が可能だろう。…けれど、俺は一般的な人間の男で…その三つのどれでもなかった。
「あ…そ、その…ちょっとは、恥ずかしいですね…」
「あ、あぁ、そうですね…」
そんな一般的な俺の目の前でベッドに腰掛けている女性が一人。長く伸ばされた水草色の髪は、彼女の穏やかな内面を示しているようで見ているだけで落ち着くような気分にさせる。しかし、彼女の髪はランタンの光が風も無いのに揺れるたびに光を反射し、様々な表情も見せてつい触ってみたくなる魅力も併せ持っていた。流石に無遠慮に触ったりしないものの、一本一本がとても細かくて、キラキラと光に反射するその髪はきっと手の中を落ちていくような極上の触り心地に違いない。
瞳は髪とは違い、意思の苛烈さを表すようなはっきりとした原色の赤だ。滅多に見ない瞳の色に思わず身を硬くしてしまうが、その中に浮かぶ羞恥の色に目を離せなくなってしまいそうになる。全体として、ふっくらとした肉感を示す頬や、はっきりと意思を示す目立ち、すっきりした鼻筋、桃色で艶やかな唇など、とても整った顔をしていた。そんな彼女が…目だけでなく、頬を赤く染め、視線をあちらこちらに落ち着かせない姿はどうにも俺の心に入り込んできて、心を掴まれる様な錯覚を覚える。
そして、それは彼女自身の今の格好も無関係ではないのだろう。俺の目の前に座る彼女はその豊満で肉感溢れる肢体をまるで隠そうとはせず、その奥の陶磁器のような純白の肌が透けて見えるほどの薄手のシャツを羽織り、むっちりとした太股を見せ付けるようなショートパンツという井出達だ。…正直、言えば、男として辛抱溜まらない、無防備過ぎる格好である。薄手のシャツは桃色のブラと共に、質感溢れる大きな胸を透かせていて、思わずその胸にむしゃぶりたくなってしまうし、ショートパンツとニーソックスという形なので完全に露出しているすべすべの太股は手だけでなく舌を這わせたくなるような妖しげな魅力を持っているのだから。あまりに魅力的過ぎて股間のムスコがギンギンになっている。例え、今すぐ立て、と言われてもそんな事なんて出来ないだろう。
「あ…あの…貴方も緊張…しています…か…?」
「そ、そりゃ…まぁ、初めてですし…」
そんな格好で恥ずかしそうに言われれば、興奮を掻き立てられるのも仕方ない。口ごもるようにそう言って視線を外しながら、チラチラと彼女の胸や太股に目を向けてしまう。さっきまでは瞳に惹きつけられていたのに、今はセックスアピールしまくっている部位に目が行く現金さに心が痛むものの、俺は男の本能とやらをコントロールできるほど理知的な人間じゃない。彼女に悪いと思いつつも何度も何度も胸や太股にいやらしい視線を送ってしまう。
―…でも…ホント、綺麗な女性だよなぁ…。
無防備に魅力的な肢体を晒すその姿も勿論だが、彼女が漂わせる穏和で優しい雰囲気が、彼女の美しさを助長する。その美しさは庶民染みた今の格好よりドレスの方がよっぽど似合うんじゃないかと思うくらいだ。少なくとも俺のような庶民をこうして部屋に招いて、同じベッドの縁に腰掛けるような人では決して無い。けれど、今、俺の手にはどんな幸運か、その権利があった。
「わ、私も初めてなんです。そ、その…お、おそろいですね」
初対面の人間と仲良くなる為には、共通項を見出すのが一番という話がある。お互いの壁を取り払い、警戒心を解くには共通の面を示して仲間である事を示すのが良いらしい。有史以来戦争ばっかりだった人間にとって、敵と味方を区別するのは本能で、そこで育った感覚なのだろう。…とりあえず何が言いたいかというと、そんな風に緊張しているのに、必死に仲良くなろうと共通項を見出してくれる彼女の姿に俺の緊張が解れ、胸の中に暖かいものが溢れていく。興奮とはまた違うそれは俺にはまだ理解できないものだった。
―俺としては…こうなる覚悟もあった訳だしなぁ…。
最初の時点ではまるで想像さえしていなかった事だけれど、後々、事態が流転していく中でこうなる覚悟はしていた。…無論、覚悟はしているだけで本当はまったく違うのだろう。…しかし、そうなる事も考えていた俺が…多少はリードしてあげるべきなのかもしれない。
「あ、あの…テスタロッサさん」
「ひゃ、ひゃい!」
彼女―テスタロッサさんの名前を呼ぶと彼女はびくりっと肩を大きく震わせて、身を硬くした
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