その1

 『拝啓、アイシャ様。このお手紙が届く頃にはもう豊穣の秋も終わりに近づき、冬も間近となっている事でしょう。
 この街では、半期が過ぎ、決算に追われる商人たちが街を賑わせています。アイシャ様のおられる場所はどうでしょうか?この街よりも北にあり、寒さも厳しいのではないかと心配です。どうかお体を暖めて身体を壊さないようにしてください。

 所で例の件ですがお陰様で成功いたしました。アイシャ様の言うとおり、二人でとっても気持ちよくなった事で、お互いに気持ちを通わせる事が出来、今ではとっても幸せです。今はまだ夫――こう書くのもなんだか気恥ずかしいですね…けれど、新鮮な響きです♪――が重要な役職に着いているので街を離れられませんが、一段落着けば万魔殿に住居を移そうと考えています。夫もその案には強く賛成してくれて、時折、待ち遠し過ぎて辞表を出そうか悩んでいる姿が何処か可愛く思えます…♪こうして以前とはまた違った強い絆で結ばれたのも全てアイシャ様のお導きのお陰であり、アイシャ様には感謝したくともし足りません。本当に有難うございます。

 心ばかりのお気持ちですが一緒に小切手を同封させて頂きました。これは私が奉仕活動の際に得た報酬ですので、本当に小額ですが、宜しければ受け取ってください。

 それではまた…万魔殿ででも会える事を祈って。

                                        修道女   ルカ・リリライトより』


 そこまで読んでボクはその丁寧な手紙をそっと畳む。折り目に従って規則正しく折り、ハーピー便で今日届いた封筒に戻ろうとすると、そこには手紙に書いてあった通り一枚の小切手が入っているのが分かった。取り出して額を数えてみると、確かにそれは決して多いとはいえない量である。けれど、基本、奉仕活動をどれだけ行っても報酬を得られない――代わりに何もしないでもパンを得られるのだけれど――修道女がここまでの額を集めるのにどれだけの汗を流したか考えるは難くない。正直、受け取るのに気が引けるが、現金収入の無いボクにはハーピー便を利用するお金すらない。それならば、辻馬車や商人を利用して送るという手が一般的だが、悪意のある業者だった場合、中身を暴かれるという話も聞く。

 ―なら…飛んで行けば良いんだけれどね。

 そう。ボクは人間じゃない。かつてエンジェルとして人を導く為に天界から降り立った存在…の成れの果てだ。種族として正式な名前はボクも知らないけれど、堕天使だのダークエンジェルだのと言う名称が一般的らしい。ストレート過ぎるネーミングだが、これだけ端的にボクらを示す言葉も無いだろう。ボクらは全て天使だった存在が紆余曲折を経て、快楽に染まった存在なのだから。
 そんなボクの背には、天使だった頃から立派な二つの羽がある。見るからに艶やかな黒に染まっていて、広げるだけで目を惹くボクの自慢の翼だ。この翼を持ってすれば、ハーピーほどではないにせよ数日であの街までいける。それは以前、近隣にまで名薬剤師として名を広げているマークの薬を『あの街』まで届けに行った時――そしてこの手紙の主、ルカと出会った時でもある――に証明済みだ。

 ―けれど…問題が一つある。

 「あら…アイシャさん。どうかしました?」

 ―その問題が、小さく小首をかしげてボクを見ている。

 かつて染み一つなかった鮮やかな肌色は、男を誘うような青白い色に変えていながらも、美しさは決して衰えては居ない。暗闇が何より似合うじんわりとした青白さが陽光に晒されているのは何処か場違いのようにも感じるが、それがまた強くギャップを描きたててオスの目を惹くものだ。
 かつて春の陽光そのもののようだった金色の髪も今は一本一本がまるで魔力を込めた銀糸のようにきらきらとしていて、目に眩しいくらいだ。目が飛び出そうなくらい高値で取引されるその糸に決して劣らない煌びやかさは、オスの独占欲を刺激するものだろう。
 また局部しか覆わない純白の薄布と手錠や足枷から伸びて身体中に巻きつけられている鎖が、彼女の持つ淫靡さをさらに助長させている。小さく身じろぎするだけで鉄と鉄が擦り合わさる音がして、自然とそちらに目が引きつけられてしまう。肩から下腹部にかけて刻まれた快楽のルーンを見せ付けるかのように、胸と股間しか隠さない薄布も、同様に目を惹いて止まない。少し手を触れてズラせば、すぐさま性的な部分をお目にかかれるであろう格好は見ているだけでオスの欲情を描きたてるに違いない。
 かつて神の教えのみを是とし、引き締まっていた幼い顔も今は物陰が無い。こうしている間にも快楽のルーンの影響を受けているのか、微かに頬を紅潮させ、舌で唇を潤す動作だけでも色っぽさを感じるものだ。強い意志を込められていたブルーサ
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