とある騎士志望の不運で幸せなクエスト

 俺の生まれた所はホント、どうしようもないくらいのド田舎だった。二毛作が主軸で春と秋には多くの畑がそれぞれ実りをつけていたが、かといって肥沃と呼ばれるほど土地が肥えているわけでもない。近くに山があり、そこでそこそこの薬草や鉱石が取れるが、それだけで外から人が集まるほどではない。魔物に対しても積極的に受け入れるわけでもないが、かと言ってまるっきり目の敵にしているわけでもない。そんな何処にでもある田舎が、俺の生まれ育った故郷だった。
 そして俺はそんな村に住む何処にでもいるようなクソガキだった。仲間と一緒に山に分け入り、秘密基地を作って、木の枝で作った聖剣や魔剣を振り回し、伝説の英雄のように振舞う。時々、気になる女の子なんかに他愛無い悪戯して、親に怒られる。虫を捕まえて家で飼ったはいいものの三日で飽きて放置して籠の中で餓死させ泣く。そんな何処にでもいる子供だったんだ。

−それが変わったのは今から七年前。

 その日も俺は友達と一緒に、山へ分け入っていた。俺はドラゴン退治するのだと意気込み−無論、あんな片田舎にそんな強力な魔物などいるはずがないのだが−友達と山の奥深く…一度も行ったことのない場所まで踏み込んでしまったのは誰から見ても失敗だったな。もう暗くなっているので帰ろうと言い出したのは確か弱虫のマークだったか。それを臆病だと笑いながら、見覚えのない場所まで踏み込んだ事に内心、怯えまくっていたのを今でもよく覚えている。
「しょうがないな」
と震える声で言いながら、俺たちはきびすを返して村へと帰ろうとした。しかし、行けども行けども、まったく見覚えのない場所ばかり。辺りは日が落ちて暗くなり、伸ばした指の先がうっすらと見えるだけの闇に包まれた。それこそ噂に聞く魔界に入り込んでしまったのだと、当時は思ったもんだよ。旅慣れた今となっては、村の裏山なんてさして脅威でもなんでもない、寧ろ安全ともいえるような場所なんだが、当時の俺にとっては見知らぬ魔境そのものだった。しかし、それはきっと俺だけじゃなかったのだろう。弱虫のマークは泣き出す寸前だし、いつも俺たちを率いていたリーダーのアルムも必死に隠してはいたが手が震えていたよ。まぁ、言い訳みたいなんだが別段、俺はそこまで弱虫って訳じゃなかったってことだ。

 −俺たちが山の中で迷ったのだと気づいたのは日が完全に落ちてから一時間ほど経った頃だったと思う。

 正確に言うなら「認めたのが」と言った方が近いんだろうな。うすうす俺たち三人は自分たち三人が山の中で完璧に迷ってしまったのに気づいてはいたんだ。しかし、誰もそれを口に出さなかったのは、認めてしまったら二度と家には帰れない、と心の何処かで思っていたからなのだろう。少なくとも俺はそうだった。
 その時、最初にそれを口に出したのはアルムだ。正確な言葉は覚えていないものの、必死に怖さを押し隠しながら震える声でそう言ったのを覚えている。それに俺は同意し、マークはついに泣き出した。今では正直、弱虫マークがよくあそこまで泣き出すのを我慢したな、と思っているんだが、その時の俺とアルムにとって、泣き出したマークはとても耳障りで鬱陶しい存在に他ならない。…いや、違うな。噴出してきた感情を向ける先を求めていたに過ぎないんだ。それがたまたま最初に泣き出したマークだったってだけに過ぎないんだろう。で、俺たちは二人でマークの人格を攻撃し始めた。しかし、それでも収まりきらなかった怒りや悲しさ、恐怖などの感情は俺の目から涙と言う形で溢れ出す。そんな俺に釣られてか、アルムも泣き出し、その場は泣き声の坩堝となったよ。

−今でもこの時のことは三人集まれば笑い話として持ち上がる。それだけこの時の三人は滑稽だった。弱虫で有名だったマークのみならず、悪ガキで怖いものなんて親父とお袋くらいだと豪語していた俺も、そして俺たちより少し年上で、何時だって面白い遊び−いたずらとルビを振ってはいけない−を考えてきたアルムも、親父やお袋の名前を呼びながら一心不乱に泣き続けていたのだから。未だに俺たちにとって黒歴史そのものだ。

 しかし、世の中、何で良い方に転がるなんて分かったモンじゃない。この恥も外聞も無い悪ガキどもの鳴き声を聞きつけて、ある旅人が俺たちに近づいてきてくれたのさ。そしてこの人が俺の人生を間違いなく変えてくれたんだ。それも良い方に。

−今でもはっきりと覚えてる。それこそ本物の純金みたいな金色の髪。雲一つない真夏の空のような青い瞳。そしてそれらを取りまとめるのは有名な芸術家が人生を掛けて彫り上げた彫像ではないか、と思うほどに美しく整った顔立ち。頭には簡素な白い羽根着きの緑色の帽子を被っていて、服装は今から思えば、一般的な皮マントと何処にでも売られているような動きやすい旅装だったが、その
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