その2

 「そこに座りなさい」

 言いながらカルナが指を刺したのは見慣れた…訳ではないが、ついこの間、俺たちが朝を迎えた彼女の部屋のテーブルだった。魔界で育つ歪な木から削りだされたそれは意外なほど座り心地は悪くなく、なにより頑丈だ。色は目に優しくない紫色をしているものの、上から染料を塗られているので、それほど気にはならず、こうして家具として部屋に備え付けられている。

 ―まぁ、それは良いとして…どうすべきかな。

 自分がこれからどうすれば穏便に収まるのか。纏まらない考えにヒントが欲しくて周りを見渡すと、そこは以前とはあまり変わっていないように見える。…いや、多分、変わっていないのだろう。俺が自殺騒ぎを起こしてすぐくらいに、この部屋の主も教会との戦いに狩り出されていたのだから。精々、服を片付ける程度で、それ以外のものを弄る余裕なんて無かったに違いない。

 「…あんまり女の子の部屋をじろじろ見ない」
 「あ、悪い」

 そして、そんな部屋の主は、俺の目の前で不機嫌そうに肩肘をつけた上に頭を預けていた。その顔は子供のように膨れている…ように見えなくも無い。さっきまでの怒っていたようなオーラは少し鳴りを潜め、拗ねているような顔に変わっているので、ここまで来る道中に何か良い事でもあったのかと首を傾げるが、特に思いつかなかった。

 ―だって、会話だって無かったしなぁ…。

 話しかけようにも背中でそれを拒絶されているような気がしていたのだから。それでも、その身体を気遣う言葉をかけたが「あぁ」とか「大丈夫」と言った投げやりな言葉しか返って来ず、会話としてまったく成立していなかった。普段ならばそこで「あの日か?」なんて下ネタを振る所だが、今の気まずさではそれは死もネタになりかねない。

 ―…いや、ちょっと上手い事言ったとか思ってないぞ。まだそこまで歳をくっていない。

 「…で、どうして?」
 「へ?」

 そんな俺の目の前で 少し唇を尖らせてカルナがぽつりと切り出した。…しかし、主語が決定的に抜けているその言葉を俺は理解することが出来ない。理由を聞かれているのは分かるが、心当たりなんて山ほどあって、どれか特定できないのだ。

 「…だから、人とえっちした後で自殺しようと思ったのはなんでなのよ」

 そんな察しの悪い俺を見かねたのか、今度はきちんと主語をつけて…でも、視線は俺から外して、呟くようにカルナが言った。何処か気まずそうな表情は、責任を感じている所為なのかもしれない。

 ―当然か。ヤった後、すぐに自殺騒ぎを起こしたわけだしな。

 責任感も強いカルナにとっては、自分が原因では無いのか、と自分自身を追い詰めていたの知れない。無論、事実は、俺の自爆に他ならないのだから、カルナに責はまったくないのだが、この女は良くも悪くも厳し過ぎるのだ。他人にも、そして、それ以上に自分にも。

 「いや…それは…」

 本当はそれを口に出して否定してやりたかった。俺の自爆なのだと、そう言って安心させてやりたかった。けれど、俺の中で、その言葉が纏まって出て来ないで、視線もあさっての方向へと泳いでいく。『好き』と言う感情をまだカルナに伝える覚悟が固まっていない所為か、どうやってそれを隠蔽しながら、事実を伝えるかという方法を算出しようとしていたのだ。しかし、あまり出来の宜しくない俺の頭じゃ、そうそう答えが出るものでもない。
 
 「…やっぱり…私となんか…したくなかった…?」

 そんな俺の様子をどんな風に勘違いしたのか、ぽつりとカルナが呟いた。震えながら搾り出したようなその声に驚いて、泳いでいた視線を彼女に向けると何事でもないように取り繕うカルナの目は潤んでいる。また、その目尻には小さな涙粒が浮かんでいて、零れ落ちはしていないものの何らかのショックを受けているのが一目で分かった。

 ―え?な、なんでそうなるんだよ!?

 自分と同じ内容で、カルナもまた悩んでいる事を知って、俺の頭は完全に焼き切れてしまった。ただ、目の前の好きな女をどうやって泣き止ませるかを考えるだけで精一杯で、他の事は全て端のほうへと追いやられ思いつくままの言葉が口から飛び出て行く。

 「いや、そうじゃなくてだな。俺としてはすげぇ嬉しかったし、気持ちよかったし、っていうか、お前のことが好きだから後悔するはずはないっていうか」
 「……好き?」

 ―あああああああああっ!何言ってんだ俺ぇえええええ!?

 思いもよらない告白に頭を抱えて転がりたい衝動に駆られる俺とは対照的に、片肘をつけた体勢から頭をあげて、驚いたように俺を見つめてくるカルナの表情には僅かに喜びの色が見えるような気がする。…けれど、その意味を俺が深く考えるよりも先に、覚悟も無かった『好き』の言葉をリカバリーしようと、頭
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