―朝と言うのは後悔の時間だ。
例えば神学校の宿題をやらず、当日を迎えた日の朝。テスト勉強をしないまま一夜漬けしようとして途中で力尽きてしまった時の朝。夜更かしし過ぎて起きられず、寝坊してしまった朝…などなど。生きている中で朝と言う時間は最も後悔と言う時間と縁の深いものであろうと思う。
―そして…今、俺の心の中に飛来しているのも間違いなく後悔の念だった。……それも上記とは比べ物にならないほど大きな後悔。
「…これどうすんだよ…」
言いながら見渡す部屋は俺のモノではない。俺の部屋はもっと雑多で衣服や下着がそこら中に脱ぎ捨てられて、足の踏み場も探さなければいけないほどだ。床一面を綺麗に磨き上げられたように掃除されていて、壁にも趣味の良い装飾を施された武具が飾られているようなお洒落な部屋でもないし、ましてやそんな武具の下にちょこんと並べられているぬいぐるみがあるようなファンシーな部屋では断じてない。
―…そしてさらにもう一つ付け加えるべきなのは。
今、起きたばかりの俺が腰掛けるベッドの右側に…シーツに埋もれて規則的に寝息を立てるような『モノ』は俺の部屋には存在しない。俺はまだまだ独身だし、軍人紛いの生活をしている所為で恋人だっていない。自然、部屋の中に居るナマモノは俺一人だけなはずだ。…しかし、今、俺の右には確かに『それ』が存在している。…いや、『それ』と言うのは相応しくないだろう。『彼女』は俺にとって、ここで最も深い付き合いのある同僚なのだから。
―そんな相手となんでこんな事に…っ!?
勿論、俺に昨夜の記憶はある。けれど、それでも尚、信じられないのだ。『腐れ縁』でもあるコイツとまさか『寝た』なんて…どれだけ酒が入っていたとしても正気とは思えない。
「うぅぅん…」
「っ!?」
突然、呻き声をあげる彼女―カルナに首ごとそちらに視線を吸い寄せられるが、カルナはまだ夢の中に居るようだった。その表情はさっきまでと同じように何処か安らいだもので、普段の片意地を張っている姿を知っているだけに意外な気がして目を引き寄せられてしまう。
―まぁ、元は良いからなこいつ。
天井に生息域を広げているヒカリゴケの幻想的な光の下では、神話に出てくる女神様のような艶やかな金色が白いシーツに波打って、寝息のたびに揺れている。さらさらとした髪が寝息の度に光を受ける角度を変えて、シーツよりも白い純白を宿すのは見ていて愉しいくらいだ。その髪の間から覗きこめる白い肌は、吸い寄せられるような美しさと同時にカルナが身に秘める力を教えてくるようで何処か健康的な気もする。健康系美人…なんて本人に言ったらその白い肌を真っ赤にして怒るだろうが、そんな言葉が何より相応しい。俺の腕にしなだれかかるように眠る肢体は全体的に肉付きが良く、一晩中愛していても飽きさせないほどの感度を持っている。そして今は閉じられて見えない瞳は深いダークブルーを湛え、じっと見つめられると、まるで引き込まれそうな感覚にも陥るのだ。
―実際、昨日はそれで道を踏み外したわけだし…。
昨日の戦い―教会が魔界へと侵攻するのを防衛する防衛戦争は俺たちの直轄の指揮官に当たる司令官殿の作戦が大当たりして、大勝利ともいえる結果に終わった。こちらの損害は殆ど無いまま、相手の大部分を捕虜に出来た結果は、無論、お祭り好きな魔物娘に宴会を呼び起こす。そして、その戦いに参加していた俺とカルナも、その宴会騒ぎに巻き込まれたというわけだ。
―それだけならまだ良かったんだけどなぁ。
しかし、俺もカルナもそう言ったドンちゃん騒ぎは好きではない。嫌いではないが、輪の中心で皆と騒ぎ会うより、それを輪の外から見て、酒を煽る方が好みなのだ。しかし、昨日はあっちやこっちで酒の入った魔物娘たちが愉しそうにしていて…いや、し過ぎていて落ち着いて酒を飲むことも出来ない。壁際で飲んでいるのに独身の魔物娘に誘われたことなんて一度や二度ではないのだ。尤も俺の隣にずっと居るカルナの一睨みで何故か訳知り顔になりつつ、全て退散したわけだが。
―そんな場所より落ち着いて飲みなおそうと言い出したのはカルナだった。
無論、それには俺も賛成した。カルナと飲むのは初めてではなかったし、彼女が指定した店も何度も二人で行った行きつけの店だったから当然だろう。賛成する理由どころか、断る理由が思いつかないほどの提案に俺はすぐさま乗り、行きつけのバーへと足を向けたわけだ。ちょっぴり小洒落た雰囲気のショットバーに。
―けれど、そこからが何か変だった。
何が気に入らないのかカルナはずっと愚痴を漏らしっぱなしだった。詳しい内容は俺も酒が入っていたので覚えては居ないが、確か、俺は女性関係に甘く、だらしない…とか言う内容だ
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