Present is...

バレンタインデー。
親魔物派領にある街では、魔王様が夫と初めて出会った日だとか、サバトがお菓子や媚薬なんかの売り上げを増やすために作った日だとか言われているようだが、実際のところは違うらしい。

昔とある反魔物派の国に愛の伝道師と呼ばれた聖職者がいた。
日々愛の大切さを説いていた彼は、ある時偶然出会った魔物と恋に落ちてしまう。
もちろん魔物を悪とする教会にとって、魔物との恋なんて以ての外。
密かに手紙のやり取りを続けていた彼も遂には教会に見つかり、捕らえられて処刑されることになってしまう。
その刑が執行されることになっていたのが2月14日。
当日になって、『裏切り者』の姿を見に集まった民衆、それに国王の前で彼がまさに首を切られようとしていたその時。
彼と恋仲にあった魔物が皆の前に現れる。
この魔物というのが実はかの魔王の娘リリスであり、彼の処刑に怒った彼女は当時まだ独り身であった国王にダークマターを『贈り』一件落着。
めでたくその国は魔界化し、二人も結ばれて思う存分愛し合う毎日を送るようになったそうな。


それ以来記念日となったこの日は、カードやダークマターを模したチョコレートといった贈り物で日頃の感謝を形にして表すようになった。
そうして愛を誓い合った男女がイチャイチャラブラブする素晴らしい日、それがバレンタインなのだ、と―――



私が聞いたところによると、大体こんな感じだった。



――――――――――



ここは私の住む街にある教会。
その中に設けられている講堂で演壇に立ち、説教をしていたダークプリースト―――レミナさんは話を終えてふぅと息をつき、聴衆へと視線を向ける。

堕落神の教えを説くここでは一般的に知られる『教会』とは違い、人だけでなく魔物も訪れる。
バレンタインデーというイベントを明日に控えているせいもあってか、今日はいつもより多くの女性、特に魔物が集まっているようだった。
一番前の席で目を輝かせているのはアリスちゃん。ふりふりと楽しげに尻尾を揺らしている姿が可愛らしい。
その何席か後ろにはリザードマンとデュラハンの二人組。意中の男性のことでも想っているのか、二人とも顔が赤くなっている。
出入口付近の席にいる私の隣には、妊婦さんなのだろう、お腹の膨らんだラミアが穏やかな表情で座っていた。
皆どこかそわそわとしていて、そしてどこか……嬉しそうだった。
そんな彼女たちを眺めて、レミナさんは満足げに頷いた後、さて、と口を開く。

「今日の説教はこれで終わりです。
明日は身近な人に感謝する大切な日。
皆さんも最も近しい隣人に感謝する気持ちを忘れないようにしましょう」

ゆっくりとした口調で言い終え、持っていた本をポンと閉じると、そこでにこやかな笑みを浮かべて続けた。

「もちろん愛もね♪」

この時周りにいた魔物たちが一気に色めき立ったことは言うまでもない。




「レミナさん!」

ありがたいお説教も終わり、楽しそうに話しながら帰る人たちをかき分けて、私はレミナさんに声をかけた。
彼女は私に気付くと、扉にかけようとしていた手を離してこちらに振り返る。

「なんでしょう、メルティさん」

先程とはまた違った優しい表情をして私の名前を呼ぶ。
私がこの教会にちょくちょく通うようになってから何度か一緒に話をしたことがあったので、互いの顔も名前もよく知っていた。
私みたいなスライム種―――レッドスライムが教会を訪れるのも珍しいので、すぐに覚えてもらえたのだ。

「あの……相談したいことがあるんだけど……いい?」

「ええ、いいですよ。何でも仰ってくださいな」

私が遠慮がちに切り出すと、レミナさんは快く承諾してくれた。
もしかしたら聖職者としては当然だと言われるかもしれないけれど、その心遣いが嬉しかった。
それでも、言い出すのが恥ずかしくて結局言葉がとぎれとぎれになってしまう。

「えっと……その、私、あの人に何を贈ればいいか……迷ってるの。
いつもありがとう、って気持ちを伝えたいんだけど……」

「旦那様への贈り物ですね。それでしたら……
シンプルに手紙やカードなんていうのはいかがですか?
ただ文字に表すだけでもちゃんと気持ちは伝わると思いますよ」

その手のことは心得ているとばかりに教えてくれるレミナさん。
確かに簡単でよい方法だが、ひとつ問題があった。

「それも考えたんだけど……私、字書けないのよね」

私の身体を見てみる。
液状で軟らかい私の手ではペンを掴めても文字を書くのが難しいのだ。
必要な時は夫に代筆してもらうので書き方を覚えようともしなかったけど、まさかこんなところで困るとは思ってもみなかった。

「そうでしたか……
では、大体こんなものを渡したいというものはありますか?」

「うーんと、お
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