楽しい時間というものはあっという間に過ぎていく。
そう言ったのは誰かは知らないが、まさに真実を突いている言葉だと思う。
今まで祭りというものを経験してこなかったミナさんにとって今日は初めてのことばかりで、
そしてそのどれもが充実していた。
金魚すくいに始まり、射的、輪投げ、ヨーヨー釣り、珍しいもので型抜きなどもやった。
その間中、彼女はずっと子供のようにはしゃいで俺のことを引っ張り回していた。
「ミナさん、何か食べたいものはありますか?」
いくつも露店を回るうちに小腹が空いてきたのでミナさんに聞いてみる。
お祭りには特有の食べ物屋も多いし、気になるものもあるだろう。
たまにこうして出てきたときくらい好きなものを食べさせてあげたかった。
「んーそうですね……あれが食べてみたいです」
周りをきょろきょろと見渡してひとつの店を指差す。
その先にはタコ焼き屋。
一見ふつうの店だが他よりも人がそれなりに多く並んでいるということは味は期待できそうだ。
なにやら店主が高速でタコ焼きをひっくり返しているがまあそれは気にしないでおこう。
じゃあ俺が買ってきますね、とその屋台に向かおうとした途端、手を引かれて留められる。
何事かと思って見ると、ミナさんはずいと顔を近づけてきた。
「私、こどもじゃありませんから一人で買いに行けます。そんなことよりあなたもお腹、
空いてるのでしょう?」
「たはは…やっぱり気付いてましたか」
当然です。と彼女はどこか誇らしげに笑う。
「私なら大丈夫ですから、あなたは自分が食べたいものを買ってきてください。
後で一緒に食べましょう」
「はい、分かりました」
「それとあまり遠くに行かないように。私はあの店の近くで待ってますから。
迷子にならないでくださいね」
「……はい」
彼女なりの心配の仕方なのだろうが、子供扱いされてるような気がして二度目の返事が若干ふてくされたものになる。
それが可笑しかったのかくすくすと笑われてしまう。
「か、からかわないで下さい!」
「ふふ、ごめんなさい。面白かったのでつい」
謝りつつも口元を隠す程度で、抑えるつもりはないようだ。
ひとしきり笑い終えると、ひとつ息を吐いてこちらに向き直る。
「では先に行って並んでいますね。また後で」
「えぇ。また後で」
握っていた手を離して数歩進むと、ミナさんはすぐに人込みに消えてしまう。
その後ろ姿を見送った後、空いた手に寂しさを感じながらも
あまり遠くに行かないよう向かいにある焼きそばの屋台へと足を運んだ。
途中、寂しさを紛らわせるようにポケットの中の『箱』を握りしめて。
「へい、らっしゃい!」
威勢の良い声で迎えてくれたのはスキュラの店主だった。
店先まで来た俺は少し驚いて、財布を取り出そうとした格好のまま、しばし見入ってしまう。
この町はそれほど海が近いわけではなく、スキュラがいることが自体が珍しかった。
呆けたように口を開けたまま固まる俺を見て彼女はニヤリと口の端を上げる。
「なんだい?兄ちゃんアタシに一目惚れかい?」
「あ!い、いえそういうわけでは……」
思わずはっと気付いて口ごもると、ハハハ!と豪快な笑い声が返ってくる。
「冗談だよ、冗談。で、買ってくかい?」
「あ、はい。ひとつお願いします」
「あいよっ!」
彼女は歯切れよく返事をすると、そのタコの足を器用に使って焼きそばを盛り付けていく。
そのてきぱきとした手、もとい足捌きは、再び見入ってしまうほどだった。
手早く盛り終えると、最後に割りばしと焼きそばの入ったパックを輪ゴムで留め、へいおまち!と渡してくる。
その数は、ふたつ。
……ふたつ?
「……あの、俺ひとつって頼んだんですけど…」
「もう一個の方はお代は結構さ。さっき手ぇつないでた嬢ちゃんに持ってってやりなよ」
「え!み、見てたんですか!?」
「あぁ。濡れおなごってのもなかなか見ないから珍しくてね。まあ見物料ってことで許してくれな」
そう言っていたずらっぽく笑ってみせる彼女。
その強引な理由に半ば呆れながらも、その厚意が嬉しかった。
「ではありがたく頂きます」
「なに、気にすんなって。それより嬢ちゃん、あんたの彼女だろ?大切にしてやんなよ」
「……はい!」
まいどありっ!という声を背に受け、小走りに通りを進む。
歩いてもすぐの距離ではあるけれど、自然と気持ちが逸って少しでも早くこの焼きそばを届けてあげたかった。
ミナさんはタコ焼の屋台のすぐ傍、人の少ない路地に立っていて俺を見つけると手を振って場所を示してくれた。
「おかえりなさい。迷子にならずに行けたみたいですね」
「ま、迷子なんてなりませんよ!それより見てください。焼きそば一個おま
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