「遅いなぁ……」
ここはとある錆びれた神社の境内。
俺は手持ち無沙汰に樹に寄りかかりつつ、ある人を待っていた。
実際は待ち合わせにはまだ五分ほど余裕があるが、たったそれだけでも長い時間のように感じた。
この時間となるとすでに陽が落ちてほの暗さが漂っていて、辺りには人の気配は感じられずどこかで鈴虫が鳴いているだけだった。
しかし、こことは対照的に少し離れた場所からは華やかな明かりや賑やかな人の声、それに祭囃子が聞こえてくる。
そう、今日はこの町の夏祭りが行われる日。
他の町のものと比べこれといって特徴のないものではあるが、普段から行事の少ないこの町では皆が今日という日を楽しみにしていて、祭りの数週間前から往来でそわそわと浮き足立った人々が見られたほどだった。
そして、今日を待ちわびていたのは俺も同じだった。
もちろん祭りを楽しむという意味もある。
だがそれよりは……
「すみません、遅れてしまいました」
突然かけられた女性の声に、体中の全神経がピンと硬直するような錯覚を覚える。
来た。
その二文字で頭がいっぱいになる。
声を聞いた、ただそれだけなのに胸がドクドクと速い鼓動を打ち、顔が火を吹くように熱くなってくる。
彼女に会うのは初めてではないというのに、いつもこんな調子になってしまう。
(大丈夫だ、落ち着け俺!リハーサル通りにやればきっと
上手くいくから!)
自分にそう言い聞かせ、二度三度呼吸を整えてから覚悟を決めて振り返った。
「ちょっと準備に手間取ってしまって。待ちましたか?」
振り向いた視線の先で、小首を傾げながらそう尋ねるのは本日の大本命。
濡れおなごの白水壬那(しろうず みな)さんだ。
今日がお祭りのためか彼女の服装はいつもより華やかで目を引くものになっていた。
頭には桃色の花飾りが付けられ、黒く美しい髪に彩りが添えられている。
普段の線の細さを感じさせる白い着物は赤色の浴衣になり、本来彼女の持つ艶やかさが際立っている。
濃い色のためかはたまた生地が厚めになっているためか着物はしっとりと濡れていても肌は透けて見えない。
代わりに胸元が開いた形のおかげで彼女の豊満なバディは存分に堪能出来た。
「……?どうかしましたか?」
不意に聞かれて主に胸に思わず見とれてしまっていたことに気付き、それを誤魔化すように慌てて返事をする。
「あ、い、いえ!今来たばかりですので!その、全然待ってないです!」
「ふふふ、そうですか。ならよかったです」
そう言ってミナさんは柔らかな笑みを浮かべた。
花が開いたかようなその笑顔に再度視線が奪われる。
が、すぐに気恥ずかしくなって視線を落としてしまう。
彼女には自分のウソが見透かされているような気になって、なんとも言い出せなかった。
視界に入る浴衣の赤がやけにまぶしく感じた。
しかし、ミナさんは特に拘っているわけではないようだった。
「さて。それじゃあ行きましょうか」
「…へ?行くってどこへ?」
「決まっているじゃないですか。お祭り、ですよ。
ほら、はやくはやく」
「あ、ああ!そうでしたね!ははは……」
半ば本来の目的を忘れかけていた俺をよそに、
待ちきれないといった様子で歩き出す。
俺も遅れないよう慌てて後に続く。
(そういえばミナさんは祭りを見るのは初めてなんだよな……)
雨の日以外は滅多に外出しない彼女を今日は無理を言って連れ出したのだ。
暗い雨の町ばかりでなく、こういった明るく賑やかな町の様子も楽しんでもらいたかったのだ。
迷惑じゃないかとも思っていたが、楽しそうにはな歌を
歌いながら歩くのを見てほっと胸を撫でおろした。
しばらく歩いているとミナさんが何か思い出したようにふと立ち止まる。
「ん、どうしました?」
「そういえば、忘れてました」
俺が尋ねると振り返り、はい。と言って差し出したのは
まるで陶器のように白くほっそりとした、手。
にこにこと笑んでいるけれど、表情からは意図が分からず疑問符を浮かべていると彼女は事も無げに言ってのける。
「手、つなぎませんか?」
「え!?て、てててて手ですか!?」
当然の申し出に分かりやすいぐらいに狼狽してしまう。
願ってもない提案ではあったが、初心な自分には少々刺激的すぎた。
昼の熱さが一気にぶり返してきたような思いだった。
「いえ、あの、その、う、嬉しくはあるのですが、なんというか、えっと……」
恥ずかしい。
本当はすぐにでも手を握りたかったがなかなか本音を言い出せない。
いつまでも躊躇する俺に、彼女の顔が少しだけ曇る。
「いや、ですか?」
「い、いえ!よろしくお願いします!」
なんとも可笑しな返答をしつつも、勢いに任せて自分の手をバッと突き出す。
ミナさんは優し
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録