プチ物語 〜樹海の奥まで〜

ここは、広い森の中心にある、真っ暗な空き地。
そして私は、その中で寝ていた。
ずっと、ずっと寝ていた。
森の周りなら、たまには人間がうろついているけど、さすがに強い触手ちゃんたちがいっぱい居るここには、誰も来ない。
いつの間にか、人間みたいな体を得た。
でもそんな事、私には関係ない。
私はただ、寝ているだけだから…



ガサ
人間の匂い。
こんなところまで人間が来るのは、珍しい。
それでも、私は目を開けようとしない。
「あなたが、この森の主でしょうか?」
その人間は、話しかけてきた。
低くて、魂の奥にまで届くような声だった。
「…うん」
「折り入って、お願いがあります」
「…お願い?」
「森の北側に、山崩れが発生して、村への道がふさがりました。ほかにも幾つか通路はありましたが、どれも前の地震で使えなくなりましたので、その道が最後でした。これ以上南側の物資が届きませんと、村人は餓死しますでしょう」
確かに最近、すごくゆれた。
触手ちゃんたちも、ひどく慌てた。
「…だから、森を通る道がほしい、っと?」
「はい。贅沢は言いません、たった一ヶ月の間、馬車一両通れるぐらいの広さで…!」
思わず少し目を開いた。
その人間は、すごく必死だった。
…ちょっと、格好いいかも。
「…うん、いい。森を荒らさないようにすれば」
人間は嬉しそうに笑った。
「でも、条件、ある」
「できる範囲であれば、なんでも…!」
「毎日、ここにきて。外の話、聞きたい」
私は、ここを離れることさえできないから…
たとえ一ヶ月の間でも、外との「つながり」が欲しい。
「それぐらいのこと、よろこんで」
人間は、即答した。
…少し、嬉しい。



それから毎日、あの人間は私の居る森の奥に来た。
その人間の名前はソーマで、ハタチだった。
年を聞くつもりだったけど…ハタチって、いったい何歳なのかな?
「そして、この森の東側には、広い海があるんだ。そして海の向こうには、魔王がいる首都があって、とてもにぎやかなんだ」
ソーマは色んな事を知っている。
だから、ソーマとの会話はぜんぜん飽きない。
「…どうした、アヴェラ?もしかして、つまらなかった?」
少し考え込んだせいなのか、ソーマは心配そうに私の顔を見た。
「ううん、すっごく面白いの」
初めてはアヴェラ様とか、堅苦しかったけど、少しずつソーマも呼び捨てに慣れてきた。
「あ、そう言えば昼ごはんとして弁当持ってきたよ」
「ありがとう…わ、おいしそ」
その弁当の作りはとても華やかだった。
「あむ…」
そして、実際にも美味しかった。
顔に出したのか、ソーマは自慢そうに私の顔を見ていた。
「どうだ?おいしいかった?」
「うん」
「やっぱり!あいつもいつも美味しい美味しいって言いながら頬張っていたからな」
「あいつ?」
すこし、引っかかった。
「あぁ、俺のダチさ。小さい頃から一緒に居て、今も同じところで仕事しているんだ」
なんでなのかな…少し、胸がもやもやしている。
なんかいやな予感がする。
「その…ダチ?ってどんな人なの?」
「ん?あぁ、そうだな…かわいくて、少しドジだけど面倒見がいい人だよ」
やっぱり、ソーマって彼女が居るの…
その後もいろいろしゃべったけど、心に入らなかった。



一ヶ月は、長い間生きていた私にとって、決して長くない。
村への通路の修理は半月で終わり、それでもソーマは律儀に一ヶ月も付き合ってくれた。
そして今日が、その最後の日。
「…」
「どうしたんだ?アヴェラ、体調でも崩したか?」
「ううん…大丈夫…」
隣のソーマの顔を見ているだけで、魔物としての本性が騒ぐ。
襲いたい。
犯されたい。
でも、それだけはダメ。ソーマの人生をめちゃくちゃにしたくないから。
「どうした?」
「ひゃう!?」
ソーマが顔を覗いてきたから、思わずみっともない声を出した。
自分でも顔が見る見る赤くなっていくのがわかる。
「どうした?顔、凄く赤いよ?熱でもあったの?」
そういいながら、ソーマは熱を測ろうと手を伸ばしてきた。
「い、いいの!」
私は慌ててソーマから離れようとした。
これ以上近くに居ると自分を抑えれなくなるから。
「あ、あの、そろそろ暮れるから…」
「そうだな、もうこの時間か。じゃ、さよなら」
そういって、ソーマは迷いもなく背を向けて帰ろうとした。
「え…」
無意識に、触手でソーマの服を掴んだ。
「ん?どうした?」
「あ…いや、なにも…」
どうしてソーマは、少しも寂しくなさそうなの?
あぁ、そう言えば、私にとってソーマは唯一だけど、ソーマにとって私は、たくさんの友達の一人に過ぎないよね。
それに、ソーマには立派な彼女が居るし、触手だらけの私なんて…
所詮、その程度の存在だから…
ソーマの背中を見ながら、思わず涙をこぼした。
なんで、それを思
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