凰火

アルマと別れた後、アタシとリデルはこの城の調練場に行った。
調練場は城の中庭の様な形で空が見える。
ここじゃあ沢山の騎士達が毎朝の訓練をしている…訓練が嫌いなアタシには無縁の場所ね。そんなアタシがなんで来たのかっていうと。
「では…始めるとするか」
一緒に来たリデルはもう練習用の剣を手にしてた。
その剣はあの娘の肩ぐらいまである細身の大剣。軽く見積もってもアタシの身長と同じぐらいのモノ…それを軽々しく振り回して準備運動をしてる。やる気満々ね。
アタシも練習用の斧を手にとって握り心地を確かめる。人間で言う両手斧クラスの重量を誇る代物。それをアタシは片手で持ち上げ、背中に背負うように構える。
「んじゃあ。闘りますか」
十歩ぐらいでぶつかる距離で、アタシとリデルがお互いに見合ってると周りがざわめいてきた。アタシ達は見世物なんかじゃないっつーの。
「見ろよ、四聖のフレイさんとリデルさんがやるぞ」
「私もお手合わせ願いたいわぁ」
「どっちが勝つと思う?」
いつもの事だけれど、見世物みたいに見られるのは流石に嫌な気分。
だけど、これぐらいで集中が切れるアタシ等じゃない。
観客達のざわめきが少しずつ静まっていく中、調練場に風が吹いて髪が揺れる。
どこかから来た木の葉が落ちる音を合図に……跳ぶ。
距離は一気に縮まって斧と大剣がぶつかり、金属音が響く。どっちも一歩も引かない…体格で押すリデル、力で押すアタシ。拮抗していた。
流すようにアタシは大剣を逸らす。けど息をする暇も無く次の一撃が来る!
横から薙いで来る斬撃を後方に跳んで避ける。
それはリデルにとって予定調和だ。大剣の切っ先は既にアタシを向いている…死が迫ってくる感覚に見舞われる…が、
「オラァ!!」
それはアタシにとっても同じ。力任せに振るった斧が剣の腹を叩く!
「くっ!?」
アタシ達は騎士になるずっと前からこうして闘ってる。もう何千回なのかも覚えていない。お互いの行動パターンを体が覚えてるぐらいだから相当やってるわね。今度はコッチの番!!
両手で斧を持って袈裟切り。それをリデルは綺麗に受け流す。だけど止まらない…止まらせるわけにはいかない。二度目の斬撃は受け止められた。
「この馬鹿力め!!」
「あら、アンタだってデカイ剣をブンブン振り回してるじゃない!」
いつもの文句を言う…。
やっぱ……闘うって楽しい。全力でぶつかり合ってお互いの強さを再認識して高めあう。何よりアタシにとって本当の意味で心が通ってる気がしてくる…アルマとだって、アイツとだって。それはリデルだって同じなはず。
向かい合っているアタシ達は笑ってる…この時間を楽しむみたいに。
脚に力を込めて弾く。弾かれたリデルを追いながら力を込め、思いっきり横に斧を薙ぐ。当たらなければそのまま回ってしまう勢いで。
「隙だらけだぞ!」
それを待っていたかのように小さくバックステップしてかわし、アタシに刃をむけた。隙だらけ?…そっちがね。
「なっ!?」
アタシを切ることに集中していたリデルは斧以外に気にかける物が無かった…だからコレが使える。
相手に対して後ろを向いてたけどリデルは横に吹っ飛ぶ。彼女を襲った物は……アタシの尻尾。
一対一の訓練はどちらかが一撃を当てたら終わるのがルール。歓声が響く中、リデルは怒り顔でアタシに向かって、
「フレイ、汚いぞ!これは得物を使った修練だ。尻尾を使うなど」
「いいじゃない、どっちにしてもマジで闘るんだったらそんな事も言ってられないでしょ?」
アタシはそのつもりだけどやっぱり納得がいってないみたい…どうしよ。
「許してよ〜、後でパフェ奢るからさぁ」
その一言でリデルは一瞬だけ黙った…よし、もう一息かな?
「そ、それぐらいでゆ…許すはずが…な、ないだろう………」
とか言ってる癖に目は迷ってる。コイツ、デュラハンは男の精で動いてるっていうのに甘い物が大好きなんだよなぁ。それで本人は同種族としては変わり者とか言われてるし、甘い物を食堂で食べるのは恥ずかしいからってアタシ等以外の奴がいる所じゃ食べないんだよ。
「んじゃあ…プリンもセットでどうだ?」
「プ、プリンも?…いや、物に釣られるわけには」
いつもの顔つきが台無しになるほど緩んで…だけど持ち直した。多分、周りに人がいるから羞恥心が勝ってるのね。
まだ熱気で包まれてて誰もこの会話を聞いてないけど、リデルにとっては恥ずかしいみたい。
まあここにはもう用は無いからさっさと退散しましょ。



ここは城の廊下…アルマはこの豪華な造りが嫌いなんだっけか?まあ確かにこんな物に金を掛けるんだったら他のモンに掛けろって感じはするけど。
調練場を後にしたアタシは再度リデルに交渉を持ちかける。
「ねぇ〜リデルぅ〜。パフェとプリンのセットだよぉ〜」
誘惑するように言ってみる…効果は
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