医者が言った…
「あの子は……もう助かりませんよ…」
やめろ…
期待していない言葉…ありえない…信じたくない言葉……
まるで夢だ。そう………これは夢なんだ。そう自分に言い聞かせる…
あいつの父はそう言った…
「せめて……娘になにかしてやりたいな…」
やめろ…
あいつの母はそう言った…
「最後ぐらい…皆で一緒にいたいわね…」
やめろ…
「いなくなってよかったんじゃないのか……あの子はお前に悪影響だ…」
「いなくなってよかったのよ……あなたには必要ないのですし…」
俺の両親は…そう言った…
やめろ……やめろ……
「「あの子はお前(あなた)とは………違うのだから(な)…」」
やめろ…やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!
それ以上言うなぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!
ドサッ・・・・・・
「………ぁ…」
どうやら、ベッドから落ちてしまったらしい。
寝相の悪さは昔から一級品のようだ。
そして、俺の寝覚めは悪い…
「………」
何度目だろうか…いや、数えなくてもいい。あの日から毎日みているんだ。
一年は365日…それさえわかっていれば何度目の夢なのかは簡単に計算できる。
俺は適当に歯を磨き、適当に朝食を取る…
時計は午後9時を指していた。少し寝すぎた…
挨拶をしてきた使用人たちに挨拶を返す。
…ここにいるのは屋敷を……貴族の生まれである俺を世話してくれる使用人だけだ…
あの頃から何一つ変わっちゃいない…
いや、一つだけ変わったことがあるか…それもとびっきりのもの…
両親が死んだ……俺にとっては忌むべき……憎むべき存在だった…父と母と呼ぶのも煩わしい二人が…ついに死んだ。ちょうど一年前のことだ。
思い出して…自嘲気味の笑みがこぼれる…俺も人間だ…死んだと聞けば一抹の寂しさもあるし動揺もする。
だけど、あの時…そんなものはすぐに吹き飛んだ。
なにせ、両親はその死ぬ間際…俺との面会を断り、葬式にも俺は呼ばれることはなかったから…
血が繋がっているのに……なんとも冷え切った親子。
当たり前ではあるかもしれない。
あの日から…俺は両親との関係を可能な限り切り崩し、ひたすらに修練と勉学を積み重ねてきた。
親に会ったのは…あの日から数えれば大体9年も間があるのに片手の指で数えられる程だろう…
「…全ては…守るため……」
結果的に俺は若くして…年齢17にしてこの家の当主となった。死ぬ間際に面会することも許されなかった俺が…だ…
過信するわけではないが、当然といえば当然だろう。
どんな過程であれ、俺はあの腐った両親の息子……そして、その剣術も知識も、俺より秀でる権力者はこの街にはいなかった。
俺はこの街の政治を任された。そして今日までの一年…俺が真っ先に行ったのはこの街の人々の暮らしを豊かにすること。
両親が貪っていた民への異常な税金制度を廃止し、どんな人でも苦にならないような税金制度を考えた。
使用人たちのこれからの給金に困らない程度に、貧困に苦しむ住民にも財産をばら撒いた。これも元はこの街の人たちの者だ…
俺が持つ道理も義理もない。
そして、無駄に広いこの屋敷…正直に言えば広すぎて雇う使用人もばかにならない…だから一部の部屋を宿として売り、俺の屋敷の70%ぐらいは宿泊室と娯楽施設になった。それでも使用人と俺の部屋はまだ十分に余っている。
もちろん宿の方の施設の管理は宿屋の人と使用人の分野だ。俺がどうこうするわけじゃない。
この街は変わった…そう皆が言ってくれる。
全ては貴方様のおかげだと…街の年配の人たちは言ってくれる…
お兄ちゃん、ありがとうって…子供が言ってくれる。
両親がいたころの圧制を知っている人たちは口々に俺を褒め称えた…
感謝してくれた…
だけど…
「せめて…これからの…この街を…守る…」
俺はそんな大それた器をもっていない。街の人たちが言うほど立派じゃない。
冷めた関係とはいえ、両親が死んだことに悲しむことすらできないんだ。
街のためとは思って手は尽くしてはいても、それは結局俺の自己満足なんだ…
『約束だよ………わたしの分まで…生きてね…』
大好きだった幼馴染も救えず、死にたくてもその約束を守ろうとした…いや、本当は自殺すらも恐かっただけなのかもしれない。
そんな臆病者で、弱虫で、無力なただのガキなんだ。
そんな俺は今、趣味と称して狩りをしていた。
子供の頃から遊び場所として選んでいた森だ。いたるところには秘密基地なんてものもある。
そんな子供でも遊べる森だが、奥は危険だ。この街の政治を任せられてる領主という者がこん
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