朧月

「騎士団に戻る気はないか?」
「でも……やはり、お前がいないと寂しい………毎日一緒でないと…駄目なのだ……」



あのいつもは冷静で…俺達の中では一番気丈なリデルが涙を堪えて言った言葉………
「俺だって……そう思う事ぐらいあるさ………」
自宅への帰り道の途中……俺は一人で呟く。
あれから二年もたつけど、今まで一緒だった幼馴染が突然いなくなるというのは慣れない…
両親が二人でずっと旅行に行ったっきり帰ってこない俺にとってはあいつ等は家族みたいなもんだった…
そりゃあ、任務の都合で離れる事はあった……でもそれ以外は本当に一緒だったから余計に寂しく思える。



「大人になったら……あたし達、騎士になろう!」
小さい頃…フレイが言った言葉を思い出す。
リデルは騎士の生まれで、騎士になることが義務付けられていた…
本人はそれを嫌とは思っていなかったけど、離れ離れになるのは嫌だったからフレイが提案したのだ。
まだ小さくてゴッコ遊びをするような年齢のアルマも騎士に憧れていたし、俺も離れるのは嫌だったからそれに賛同した。

あの頃は本当に毎日が楽しかったなぁ……そういえばリデルって水が怖いんだっけか…?

確か………

「木登り競争しようよ♪」
そうだそうだ…昔、アルマがそう提案したんだ。街の外の小川で木登り競争をしていたんだ。
まあ、ただの木だったら遊びなんだけどそれは城の様な大樹だった……つまり本気の競争で、
「ヤリィ!!僕が一番だ!」
5歳も離れていながら、俺達の中では一番運動神経の良いアルマが一番でその次が俺、そしてリデルとフレイが並んでいる時…
「リデル…降参した方が身のためじゃない…?アタシがアンタの代わりにゴールしてやっからさぁ」
「それはこっちの台詞だ……頂上について怖気づいても知らぬぞ…」
いつもやっているお互いを鼓舞するための罵り合いをしていて大丈夫だなって思ってたんだけど…

ゴウ!!

そんな音がするぐらいの突風が吹いて事件が起きた…
「リデルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!?」
フレイの叫びに下を降りてみると………
リデルの首が無くなっていた………そりゃあもう奇妙だった。
だがそんな事思っている場合じゃない、どこに行ったのか探そうとしてるとリデルの手が手招きしたので、手を差し出すと…
『川……     頭……    落…』
っと手に書いてくれた………それだけ書いてくれれば何があったのかは分かり切っている。
「僕、ロープと救急箱持ってくる!!」
「アタシ、川見てくる!!」
一気に散った…ちなみに俺は気を失ったときのために体を支える係だった。
なんとか彼女の体を背負いながら樹から降りたけど……一向に動かない…
アルマがロープと救急箱を持ってきた頃、フレイもリデルの無くなった首を見つけた。

川と一緒に人の頭が流れていると言うのはなんともグロくて奇妙な光景だった。

結構深い所だったのでロープで救出したのだがそれからが大変だ。
正直、デュラハンの体の構造を知らない俺達は人間と同じ治療をして良いのかと迷ったのだ…
とりあえず分かったのが、首と体が空間で繋がっている事…それが何とか分かって行動開始した……のだが…
「えっと…とにかく飲んだ水を吐き出せばいいのね?…ウォラァ!!」
「ゴフゥ!!」
とりあえず水は吐いた。
「姉ちゃん!違う!違うから」
「人工呼吸…誰がする…?」
「人の命が掛かってんのよ!ホラ、トオル。ブチュウっていきなさい」
「俺かよ!!普通お前だろ!」
「ウルサイ!歯ぁ食い縛れ!!」
俺とリデルがファーストキスを失った瞬間だった………



「そんな事もあったなぁ〜……結果的に助かったからいいけど」
それから…リデルはカナヅチになって水が怖くなってしまった。
今ではアルマに弄ばれるための彼女の少ない欠点になっているが怖がるリデルは少し可愛い気がする。
あの頃は本当に毎日がのんびりだったりハチャメチャだったりした日々だったな。

アルマは年齢の問題があって俺とフレイとリデルの三人で士官学校に先に行って騎士になった。
その後アルマも最年少で試験に合格して騎士になったのだけど……
………その頃の騎士は四聖と言うものはなく、貴族が実権を握っているようなものだった。
そこで俺達は、憧れていた騎士の正体を知ったんだ。
貴族に嫌われればそこで出世は不可能……親から少なからずそれを聞いているリデルも予想よりずっと酷かったと言っていた。
「騎士の頃は、あんま良い思い出が無いな……」
陛下達も暴走する貴族達をどうにかしたかったが、いくら国を統べる者といっても裏のある貴族全部を敵に回すのは得策ではないと判断したのだろう。
いくら力があっても恐怖政治はしたくないとあの二人は言っていた。
そんな中で………俺は一つの過ちを犯した…




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