――1人で生きるのは、寂しい
――2人で生きるのは、苦しい
ざくり、ざくりと足が木の枝や木の葉を踏む。足元の茶色い土の間から覗いた緑の葉を踏まないように山道を登り続ける。
普段から人通りが少ないであろう山は、ほぼ道というものは無い。
「アリサちゃん。大丈夫?なんなら今からでも飛ぶ?」
アリサの前を行くイリアが、歩みを止めずに振り返って聞いた。今は種族の特徴である角や翼は隠され、傍目には人間の女にしか見えない。
そう聞いてきたイリアに、アリサは白い面を左右に振ることで答えた。今のアリサの顔はいつもより一層白く、いっそ蒼白と言っても良いくらいだった。翼や角もイリアのように仕舞われておらず、尻尾も力なく地面を向いている。
「飛ぶのはもういいです………」
飛行中の体験の数々を思い出し、アリサは小さく身震いした。その様子を背中ごしに見てとったイリアは、苦笑しつつ続ける。
「アリサちゃんがへこんでるから、鳥の気分を味わわせてあげたかったのに」
飛ぶのって慣れれば気持ちいいのよ?とアリサに笑いかけるのだが、もともと人間であったアリサにその感性は伝わらない。帰ってくるのは恐怖の色を宿した返事だ。
「鳥ではなく星になるところでした………」
実際、アリサは墜落しかけているのでその言葉はあながち嘘でもない。その時はイリアが助けたのだが、1人で飛ぶのはやはり無謀だと言える。
そのような問答を続けながらも、2人は着実に山道を登って行く。すでに景色は森のようなそれではなく、木々もまばらな険しい山のそれだ。
足元も不確かなごつごつした岩場を、イリアは大した苦もなく上って行く。アリサも長い白髪と、同じ色のワンピースを揺らして後に続く。肩の上下に合わせて背の翼は小さくはためき、尻尾は揺れた。
「まあ、飛ぶのはおいおい慣れればいいわ」
そう言ったのを最後に、アリサに笑いかけたイリアは前を向き、黙々と先へ進む。その背中に、アリサはイリアの優しさを感じた。
しばらく無言で進んだ2人は、誰ともすれ違うことなく山を登り続けた。木々の姿が全く見えなく見えなくなったころ、アリサはふと、疑問に感じたことを聞いてみた。
「そう言えば、山のふもとの村の人が気になることを言っていたのですが……」
唐突に口を開いたアリサに、イリアは不敵に笑いながら答える。
「それって、この山に巣くう凶暴なドラゴンのことでしょう?」
まさに自分の考えていたことを言ってのけたイリアに、アリサは訝しげな視線を投げかける。
それを受けてなお、イリアの不敵な態度は変わらない。
「なぜ、それを知っていて………?ドラゴンに見つかれば危険ではないのですか?」
アリサの懸念はもっともだ。ドラゴンは縄張り意識が強く、自らの縄張りに入るものを決して許しはしない。
しかし、それはあくまでも一般的な認識だ。本物のドラゴンを知るイリアからしてみれば、それは教会が勝手に決め付けた偽物の影にすぎない。
それを、綺麗な髪や夜色の翼を揺らしながら一生懸命に語るアリサの姿はかなり愛らしい。
「いいの。私達はそのドラゴンに会いに来てるから」
「へぇ………って、ええ!?」
アリサは目を丸くして聞き返す。まだ人間だったころの記憶を多く持つアリサにしてみれば、ドラゴンの巣というのは危険地帯に他ならない。
自らの常識に則って、アリサは村で聞いたことをイリアに伝える。
「駄目ですよ!この山のドラゴンはとても凶暴で危険だって、ふもとの村の人が言ってました!」
アリサの必死な説得に、イリアは額に手を当てて力なく笑った。アリサの必死さの原因が、イリアにもようやく分かった。
ざわざわと風が吹き、からからと軽い石が転がる。
「あー、そうね。ナータは排他的だから……。なぜか村の連中に酷く嫌われてるし………」
そう言った瞬間、イリアは素早く左に跳んだ。一拍後、イリアが元いた地面が爆音と共に砕け散る。それと同時に、もうもうと土煙が上がった。砕け散った石があたりを襲う。
「―――!」
突然の出来事に、全く反応出来なかったアリサが、やや遅れて身をかがめる。隣ではイリアが角や翼をあらわにし、その豊満な体に燐光を纏っている。体の前には巨大な魔法陣が展開し、アリサとイリアを襲うはずだった石片を空中で受け止めていた。しかし、その盾では受け止められない衝撃波があたりを叩く。
「排他的で悪かったな!」
土煙の中から女の声がし、羽ばたきの音と共に立ちこめていた土煙がなぎ払われる。一瞬で晴れた土煙の中には、自らが巻き起こした風に髪を舞わせながら腰に手を当てたドラゴンが立っていた。その表情には、余裕と共に笑みが浮かんでいる。
その顔を確認したイリアはシールドとして張った魔法
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