魔王軍不死兵団所属、魔女ルストリの手記より…
聖皇暦325年1月7日、まだ日も昇りきっていない早朝、わたしはかつて国境都市ドルトラークと呼ばれていた場所の近くにいた。
ここは既に魔物と新魔物派の為の都市じゃない…
国境都市ノメインが反魔物派の急襲を受けて壊滅した2日後…丁度エリスライで会議が行われたその日の夜中に、この都市も急襲を受けて陥落していた。
敵の部隊はノメインにいない…魔王軍不死兵団の部隊長であるラピリス様がその事に気が付いたは、上空から偵察と巡回を行っていた冥螺様麾下の空中部隊からの報告のおかげだった。
国境警戒任務の最中にノメインの北にある隣の国境都市ドルトラークで黒煙が上がっているというものだったけど、それでラピリス様は何かを察したみたいだった。
即座に94人から成る迎撃部隊に移動を命じたので、わたし自身も周囲の仲間と一緒に跳躍魔術でドルトラークまで後、数kmの場所に移動した。
そして、移動後に偵察部隊を放ち情報収集を行い今に至る。
周囲がゆっくりと明るくなる。
街の外壁が裸眼でよく見えるほどの距離まで部隊は移動していた。
街の大きさはさほどでもなく、正門から街の端に位置する石造りの砦まで、750m程度だ。
正門から砦までは、民家や市場、娯楽施設、サバトの為の教会(のような物)が立ち並んでいるが、街の造りとしてはやや細長く、正門から砦までを奥行きとするならば、この街の幅は精々450mといったところ。
それでも223人の人間と21人の魔物が住まうには十分であった。
そんな事を考えながら、わたしは石を組み上げた無骨な壁を見上げる。
朝だが、敵に動きは無い。
「…コレより敵部隊を撃滅する」
外壁から一番近い茂みの中で、ゆっくりと立ち上がりながら、ラピリス様はどこか声を小さめにそう宣言した。
流石にいつものようにでっかい声を張り上げるわけにはいかないようだ。
「「「応!!」」」
彼女の部下達も力強く、しかし静かに答えた。
正確に言えば、わたしはこの部隊の所属ではない、師であるリシア様からの命で一時的に配置されているに過ぎない。
それでも、今のわたしはラピリス様の部下の1人なのだから、彼女の命令に従うのが義務であろう。
「はい!」
だから、わたしも静かにそう答えた。
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それからものの5分で、ラピリス様率いる本隊とラピリス様の参謀であるダークエルフのリィン様が率いる分隊に分かれ、それぞれの持ち場への移動を終えた。
わたしはリィン様率いる分隊にいる。
わたし自身は前線で戦えるような戦闘能力は無い。
魔術戦ならばそれなりに役に立てるが、白兵戦はからっきしだ。
わたしを含めて総員20人からなる分隊は街の正門から少し離れた付近にある茂みに潜伏していた。
正門前に集合しようと移動している最中に、正門両脇にある監視塔に人がいる事に気が付き、見つからないように茂みに潜んだのだった。
本隊は正反対の位置に集まっており、そちらには裏門は無い。
わたし達の役目はあくまでも陽動……正面から攻撃を仕掛け、敵を引き付けた所で本隊が裏の外壁を破壊して突入し、敵の司令部を直接撃滅するという作戦らしい。
少々回りくどいが、侵攻部隊の人員は不確定ながらも150人以上だと聞く。
100人に届かないこの部隊が正面から当たるのは、いくらラピリス様の戦闘能力が飛び抜けているとは言え、余り好ましいとは言えない。
かつての戦いで個人戦を主体としていた部隊長や部隊がかなりの被害を受けた事から、突出した個人の戦闘能力だけで挑むのは危険であると考えるようになったのだろう。
人間という種族は、個で見れば魔物と比べるのも可哀相になる位の能力しかない。
だが、人間は群でもって優れた個に対抗し得る。
だからこそ、ラピリス様もお一人で無茶をされないのだろう。
まあ、ラピリス様の本心がどうかまでは、わたしでは推し量れないのも事実だが……
とは言え、いくら何でもこの人数で敵部隊を抑えるのは大変なんじゃないかな…?
そんな事をぼんやり考えていると、リィン様の声が聞こえてきた。
リィン様はダークエルフという種族であるが、彼女はとても穏やかな気質で、部下からも信頼されているようだ。
しかし、本質的には人間の男を手元に置いておきたいと思っているのか、街でお会いしたときなどは、道行く男に色気のある視線を投げかけていたものだ。
リィン様は小声で、そして簡潔に用件を伝えてきた。
「時間です、始めましょう」
「はい」
ラピリス様に指定された刻限となり、リィン様は2本の矢を矢筒から取り出しながらそう言った。
わたしは愛用の杖を強く握り締め、覚悟を決める。
実戦経験が無いわけ
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