彼女は夢を見ていた。
既に過ぎ去った過去の夢。
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場所はジパング、皇都以外との交流を全て絶ち、独自の魔術を育んできた鴉の里があった。
その里は鴉の魔術師と呼ばれた稀代の魔術師が作った小さな隠れ里である。
鴉の魔術師は独自の魔術を使っていた。
それは札(カード)に特定の魔術を封印し、必要に応じて魔術そのものを召喚する特殊魔術である。
『鴉の魔術』と呼ばれた魔術を駆使し、彼はジパングを旅していた。
今となってはその目的も定かではない、『魔術の研究開発のために旅をしていた』、『自分と並ぶ魔術師を求めていた』等々、鴉の里の人間ですら、噂や憶測でしか語れないのであった。
そして、彼(実のところ男か女かは定かではない)は何らかの理由で札の大半を失ってしまう。
それを回収するために彼は鴉の里を作り、才能豊かな魔術師を集め、子や弟子を育て、魔術師にし、札の回収に協力して貰う事にしたのだった。
しかし、彼の存命中に全ての札を回収することは出来なかった。
彼の死後、『鴉の魔術師』の称号は弟子に受け継がれていく。
そして、その弟子が志半ばで倒れればそのときに最も能力の高い弟子へと、使命と称号が受け継がれていった。
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時は聖皇暦312年。
ジパングで起きていた内乱は6年も続いている。
皇都…すなわち京の都と呼ばれた中心都市ですら、戦火は広がっていた。
だが、レムリアとジパングの同盟協定に反対する勢力は、それと相反する勢力に押され、既に皇都を残して壊滅しており、内乱終結も時間の問題であった。
そんな情勢下でジパングの皇都から徒歩で1日以上を要するほどの深い山奥の隠れ里にその娘は居た。
齢5歳という幼子ではあるが、次期『鴉の魔術師』候補の1人である。
彼女は今日、自分の世話役と共に山の中に散歩に出ていた。
「ねぇ、阿賀野、これ見て〜」
少女は今さっき手に取った物を阿賀野と呼ばれた少女に見せた。
「どうしました、桜華様…これは桜の花ですね」
「うん!、とってもきれいだよ!」
差し出した花びらは、桜華と呼ばれた少女が着込む着物に1つだけあしらわれてる花と同じ物であった。
もうすぐ6歳になる彼女は毎日毎日様々な物に興味を示す。
好奇心が増す毎に彼女は沢山の言葉や知識を身に付けていた。
「阿賀野〜桜華おなかすいた〜」
「あ…そうですね、そろそろ昼食時ですね」
日も真上に差し掛かり、2人とも空腹を感じ始めていた。
散歩道の両脇に立ち並ぶように生える桜の木には、ピンクの可愛い花が咲き誇っていた。
2人はその木の下に布を敷いて座る。
桜華が愚痴っぽく喋り始める。
「桜華はいつになったら魔術がちゃんと使えるようになるかなぁ?」
「桜華様ならすぐにできる様になりますよ」
「むぅ…でもまだ1回もちゃんと使えたことないんだよ……明日が本番なんでしょ?」
「焦らないで下さい、今日の夜にでももう一度練習しましょう?」
「…うん」
やや不満げに、桜華は持ってきたおにぎりを食べ始めた。
それを阿賀野は微笑みながら見ている。
「おいしい〜」
「それはよかったです」
「う…しゅっぱい…」
突如口中に広がった酸味が、彼女の表情を強張らせた。
少しだけ、梅干しを入れましたから、そう言って悪戯がばれた子供のように笑っていた阿賀野だったが、次の瞬間に表情を強張らせた。
彼女のしっとりと濡れた体が微かに震える。
彼女…ぬれおなごの阿賀野は何かを感じ取った。
「桜華様」
「どうしたの?」
「それを食べたら一旦里に戻りましょう」
「ん〜分かった!、でもその前にもうちょっとだけ花びら集めていい?」
「…ごめんなさい、桜華様、ひょっとしたら里に何かあったかもしれません、急いで戻らないと…」
「……ぶ〜、分かった、でもまたいっしょにここに来ようね」
「もちろんです」
2人はそれぞれおにぎりを平らげ、立ち上がり、来た道を戻り始めた。
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里へは30分も掛からずに戻ってこれた。
阿賀野が危惧したようなことは何もなく、里はいつもの様に静かな日常を過ごしていた。
それほど多くない木造の家屋を取り囲むように田畑が広がっている。
田畑で作業をする住人を脇目に、里をぐるりと見渡す。
里のほぼ中央には他の民家と比べて一際大きな木造の建物が建っている。
そこは、祭殿と呼ばれる現状里が保有している『鴉の魔術』の保管場所にして、次期『鴉の魔術師』決めるための特別な建物であった。
その周りを堀が囲み、そこから放射状に民家とそれを囲
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