ある日の会議風景 T

国境都市ノメイン急襲に関する緊急会議資料。

その日、久しぶりにレムリア大陸方面を担当する魔王軍の部隊長達が一同に介した。
エリスライにこれだけの部隊長が集まるのは緊急事態に限る。

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ノメイン壊滅から2日後。
魔都エリスライの中心に位置する教会(首長の居城と兼用)の一室にフェリンは座っていた。

会議を招集したのは彼女なのだから、彼女が最初に席に座っているのは至極当然のことであろう。
脇には魔女が1人、静かに佇んでいる。
2人とも一切口を開かず、黙って目の前の閉じられた扉を見つめている。
すると、重苦しい音を立てて扉が開き、2人の魔物が会議室に入ってきた。
1人目は吸血鬼・ラピリス、2人目は烏天狗・冥螺だった。
この2人は会議となると必ず最初かその次にやってくる、この2人の間で順番が変わることがあっても他のメンバーと変わることはまず無い。
あたりに低い音を響かせて扉が閉じると、フェリンは口を開いた。

「相変わらず来るのはお前達が最初なんだな、まあよい、席に座っておれ」
「うむ」
「は〜い」

吸血鬼は言葉短く、烏天狗は軽い口調で答え、それぞれの割り当てられた席に座り込んだ。
4人になっても互いに言葉は交わさず黙って座っている。
それから間も無く会議室の扉の隙間から、ダークスライムのリシアが侵入してきた。

「!」
「間に合いました!」

冥螺が驚いて可愛い悲鳴を上げたが、ラピリスもフェリンも、それを意に介することは無い。
だが、表情を歪ませたフェリンが口を開いた。

「……お主はもう少し常識的な入室はできないのか?、というかコアをどうやってあの隙間から会議室に入れたんだ?」
「?」

何を言っているか心底分からない、というような表情をするリシアに、フェリンは呆れ果てながら席に付くように促した。
リシアが席に座る…というよりも席そのものを身体で飲み込んだちょうどそのタイミングで扉が開き、本日会議に参加する残りのメンバーが一斉に会議室に入ってきた。

「ボクとしたことが、少し遅れました」
「うぅーのどが渇く…」
「世話が焼けるね、これ飲みな」
「ありがとー黒夜姐さん…」

ギャーギャーと賑やかに入室してきた魔物は3人。
先頭で扉を開けたのがデュラハン・スレイ、自慢の大剣は背中に収めている。
首は…どうやら外れないように片手で抑えたり調整しているようだ。

2番目にフラフラになりながら入ってきたのはシービショップ・ディーニャ、器用に尻尾を支えとして上半身を起こし、ラミア種ばりにズリズリと尻尾を引きずりながら移動している。
水棲の魔物である以上、陸上での行動は大変なはずなのだが、彼女は頑として他の方法をとろうとしない。
そんなディーニャに水を渡したのが3人目、ドラゴン・黒夜だった。
気だるげな様子ながらも、凛とした佇まいはさすがドラゴン種というべきであろう。

「ほぅ…今回も黒夜が代理かの?」
「ああ、そうだよ…いつもの通り、月夜はサボりだ」
「…あのサボり魔め…」

本来ならば月夜という名の魔物がこの場に居るべきなのだが、彼女はなんだかんだと理由をつけて副部隊長を会議に出させるほどのさぼり魔である。
以上、部隊長6名と代理1名にお手伝いの魔女を含めた計8人が集まり、会議が始まった。
だが、始めに口を開いたのはフェリンではなく冥羅であった。

「しっかし、私達魔王軍の部隊長も減ったわね」
「そうね…クイーンスライムのティアラ、エキドナのルーイェ、暗殺部隊のギルダブリルのリースとマンティスのアルーシャ、みんな戦死したり部隊長を辞めたわね…」
「だな…廃止になった部隊も多いからな…ルーイェの蛇人部隊はじめ、暗殺部隊とかリュートが率いていたサキュバス部隊とかな」

冥羅が呟く言葉にリシアがため息を付きながら続けた。
頬杖を突きながら残念そうに答えたのは黒夜だった。
魔女はそんな雑談から始まった会議の様子を尻目に、各部隊長に紅茶を出して回っていた。

勢力が最大規模であったときは今の倍とまではいかなくとも、それに近いくらいの大所帯であった。
戦闘向けの種族を選び、種族ごとに部隊を分け、それぞれに部隊長を置いていたものだ。
だが、それも今となっては組織だって動く部隊はここに集まる魔物が率いる部隊のみ、それすら人員不足に悩む部隊ばかりである。
理由は度重なる戦闘による構成員(部隊長を含む)の戦死や魔王交代を切欠に人間と交流し、人間を伴侶に選んで軍を抜けるものが相次いだからであった。

「汝ら、そんな世間話をしに来たわけではあるまい?」
「あ…すまんね」

ラピリスの言葉に、黒夜が悪びれもせずに謝罪する。
コホンと咳払いをして、改めてフェリンが口を開いた。
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