3人の黒服の男達は今、20人は座れるかと言うほどの大きなテーブルに並んで座り、自前の黒頭巾を外した上で、目の前に出された紅茶を口に運んでいた。
種類や収穫時期についての知識は3人には無いが、深みのある甘い香りは3人の楽しませた。
そんな3人の真正面の席には1人の少女が座っている。
特徴的な2本の角とその一見幼い容姿に潜む高い魔力。
目の前に居るバフェメットのフェリンと3人の男達がこの薄暗い大食堂で茶会を楽しむ理由…
それは20分ほど前に遡る事となる。
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3人はスレイとラピリスの部下達から逃げるために空間転移術を使った。
彼らを包む光がやけに灰色に濁っていたのだが、慌てている3人は気付く事も無い。
彼らが光の本流に飲まれ、その体が消えた瞬間、“足”は術の発動に違和感を覚えた。
だが、時既に遅く、数秒と待たずに3人は乾いた絨毯の上に投げ出されていたのだった。
「おい…ここ…どこだ?」
「…し…知らないよ」
困惑する“耳”と“眼”だが、それは“足”同様であった。
“足”はヴォルマルクの近郊に術式を刻んでいたが、それはこんな西洋式の館の中ではない。
転移術の誤作動も考えたが、これまで何年もの間転移術を使ってきたが、そのような事は一度も無かった事を考えると、誤作動ではない。
3人はひとまず、周囲の状況を確認しようと周りを見回す。
松明やランタン等の明かりは無く、壁や床にふんだんに埋め込まれた蛍結晶が彼らの居る小広間を照らしている。
小広間には小さなイスやテーブル、チェス盤やダーツの的があるところから、休憩室のようであった。
「…ねぇ“足”これやばいよ…別のところに飛べないの?」
「すまん無理だ…俺の術式は1回使ったら勝手に消滅するし、予備も刻んでないからどこにも飛べない…」
「まじかよ…まいったな…」
3人は何とか立ち上がる。
不思議と馬車酔いは引き起こしておらず、誰も腹の中身を戻す事は無かった。
それも妙な違和感として感じたのだが、今はそれよりも急いでここから逃げる事が先決であった。
だが…
「おぉ、こんなところに出ていたか」
小広間から廊下に出るための出入り口から聞こえてきた声に3人は一斉にそちらを振り返る。
「薄暗いところで黒服だと見えにくくての…何度も見逃したわ」
「あんた…誰だ?」
入り口の高さは2m強、それと比べると、今入り口に立つ人影は1.3m位だろうか。
体は小柄ながらも言葉使いは古風なものであった。
「わしか?、わしはフェリン、部下も総動員で探させていたのだが、まさかわしが見つけるとはついている」
「フェリン!?」
“耳”が驚愕の声をあげる。
その名前には嫌と言うほど聞き覚えがあった。
バフォメットのフェリン、それはこの大陸における魔王軍の最高責任者にして魔王軍幹部の事である。
3人は噂に聞く残虐非道な彼女のイメージと目の前の少女のイメージを上手くイコールで繋げられないが、それでも何とか思考を整理する。
そして、至る結論…
「ってもしかして…」
「…俺らはえらいところに連れて来られたって訳か…」
「うむ、お主達が使っているらしい術式の刻印を見つけたとの報告を受けて、わしが悪戯をしたのじゃ」
そんな3人をニコニコと見つめながら、フェリンは嬉しそうに話を続ける。
「……予想しているだろうが、ここはわしが住む館じゃよ、まあこんなところではなんだ、場所を変えようと思うのだが…どうかな?」
「…どうする?」
「“耳”…選択肢があると思うか?」
「…だね……今はあんな様子だけど…彼女は魔王軍最高幹部の1人…本気になったら俺たちはあっという間にミンチだろうしね…」
“耳”の問いに短く返す“眼”、実際のところ3人に選択肢は無い。
建物の構造が分からない上に、ここは彼女の居住する洋館。
腕の立つ部下で固めているだろうし、彼女自身が強力な魔物でもある。
結局のところ、3人はフェリンに従うしかない。
「おーい、付いて来ないと迷うぞ〜?」
「分かりました、不本意ですが、貴女の言う通りにします」
「うむ、実に重畳、では紅茶でも飲みながら…な」
フェリンは見た目に似合わない妖艶な笑みを3人に投げかけながら、彼らを小広間から連れ出した。
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そして、彼女に大食堂まで案内され、彼女に紅茶を振舞われて現在に至る。
紅茶を出されて既に5分、中身も尽きようかという時に、大食堂の数ある扉の一枚が開いた。
「フェリン……様、紅茶のおかわりとお菓子をお持ちしました〜」
「うむ」
陽気で呑気な言葉を発しながら、食堂に入ってきたのはこれ
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