魔物娘生物災害 Z

― 反魔物領カルコサ ― 

その日、街は死んだ。


開放された昇降口から溢れ出たゾンビ達は、真っ直ぐ中庭の先、校門へと向かっていく。

丁度、学園前の道を歩いてた自警団の男2人は、学園の中庭を猛烈な勢いで自分たちに向かってくる学生達を見つけ、何かあったのかと足を止めた。
だが、落ち着いて見れば衣服が破れ、表情が虚ろになった女学生ばかりが年甲斐も無く全力疾走してくる様子から、異変が起きている事と身の危険が迫っている事に気付くべきであった。

「どうした!、何があった!?」
「おぃ、待て、様子が変だ!!」

片割れが異常に気付いたが既に遅く、あっという間に中庭を突っ切り、門を超えたゾンビ達に押し倒されてしまった。
そして彼らは学園内の男性諸君と同じ末路を辿る事となる。

その2人の被害をきっかけに、街の東から西へと、爆発的に被害が拡大していく事となる。

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― セイレム学園 ―

7人は無人の学園の中を走っている。
化学実験室から出た彼らは、学園の中に魔物も人間もいなくなった時、初めて行動の自由を得ていた。

彼らは階段を駆け下り、場所は1階。
昇降口までの廊下を全員が走っている。
普段は人の喧騒が包むお昼の光景は、同じ時間帯であるにも拘らず、見ることは出来ない。

なんやかんやで周囲を警戒しつつ、トイレに行ったり携帯できる水筒に水を入れたりで、ゾンビ達が学園から全ていなくなってから、30分ほど時間が経っていた。
彼らはどちらにしても、ゾンビ達に追いつくわけにいかなかったのだ。
あれだけの数のゾンビを退け、しかもゾンビよりも先に家族の下へ到達する・・・そんな事は不可能だと分かっていたのだった。

今、7人は一通りの準備を終えた上で、昇降口にたどり着いた。
既に静かな学園と違い、開かれた昇降口の向こうからは微かに喧騒と血と魔の匂いが漂ってきていた。

「・・・本当に行くのよね?」
「ここに留まっても助からないぞ・・・」

トロメリアの不安げな言葉に、シルトが答える。
だが、他の面々もおおよそ似たような不安を抱えているらしく、その表情は暗い。

「ティクさんの家はすぐでしたよね?」
「ああ・・・5分位かな」
「じゃあ、行きましょう」

まずはティクの家に向かう。
クレンはそのことを確認すると深呼吸をした。
そして、彼女の吐き出す吐息を合図にしたかの様に、7人は昇降口を飛び出した。

中庭には誰も居ない。
ゾンビ達を率いる魔物は上手く自分の部下を制御しているようだった。

中庭を走りぬけると、間も無く校門にたどり着いた。
校門から目の前の街道を見回すが、幸い見える範囲にゾンビは居ない。
7人は校門で一旦足を止め、周囲を確認している。

「ここから・・・家、見えるよな・・・確か」
「だな・・・あそこだ」

レインは記憶を漁り、ティクの家の位置を思い出していた。
彼が指を指し示す先には他の家々に重なり合った1件の家があった。
見た目だけでは中がどうなっているかは分からない。
結局中へ入って、様子を見てみるしかなかった。

「じゃあ、一気に行くぞ、」
「了解」

シルトの掛け声に、ティクが小さく声を上げた。

そして、彼らは前もって打ち合わせた隊列を組む。
それは女性陣4人を中心に前衛をティクとレイン、後衛をシルトが担当し、その隊列のまま移動するという物だ。

現状、女性の方が多いため、どうしても防衛に回れる人間が少ないが、贅沢は言っていられない。
幸い、モップや箒の柄を武器として携えているため、素手で立ち向かうよりはましであった。

7人は得物を構え、隊列を組み、ティクとレインを先頭に全力で駆け出した。
学園を出てすぐの街道は左右に分かれている。
幸いそのどちらにもゾンビの姿はない。

彼らは学園を出てすぐの街道を左に曲がり、突き当りのT字路を更に右に曲がる。
ティクの自宅はこの街道を20m程進み、そこから脇道に入ったところに有るのだが・・・そこは光景が一変していた。

「なに・・・あれ」

シャルの言葉が示す物、それは狭い街道一杯に広がった20人ほどのゾンビ達が男に群がったり、追いかけていたり、女を押し倒したりしていた。
どうやらティクたちの反対側からもゾンビが来ているらしく、街の住人達は逃げ場を失い、パニックになっているようだった。

20m先というと、あのゾンビ達の肉欲の宴のすぐ脇をすり抜けなければならない。
果たして気付かれずにそれが出来るのかが問題だった。

「考えても仕方ねぇ、一気に抜けて、俺の家に避難するしかねぇよ」

ティクの一言に、足を止めていた7人は改めて走り出していた。
強行軍。
だが、現状では更に回り道をするのは賢いとはいえ
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