魔窟の少女

少女は項を捲る手を止めた。

そして、脇に置いておいた陶器のカップを手に取り、口に運んだ。
紅茶の香りが鼻をくすぐる。

少女は改めて項を捲る。
何項から捲っていく内に、ある逸話についての記述に目を留めた。
それは歴史の講義で学んだ内容を少し異なる面から捉えていた。



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・聖皇暦321年11月


場所は反魔物領の内陸深い場所。
周囲を木々が覆いう中、丘陵を切り裂くように築かれた1つの古城があった。

そこは反魔物領に有って尚、魔物達が住み着く曰く付きの場所である。
いや、正確にはギルドや騎士団に勘付かれずに潜んでいる場所というべきか。

ここ2年程の間、誰にも気づかれること無く、城にこっそりと出入りし、密かにその規模を増大させている。

城の中は大きく分けて4つのエリアが有る。

この城の主が座する居館がある北棟。
そして、来賓を最初に迎える中央棟と従者や衛兵が控える東棟と西棟だ。

時刻は深夜、城の魔物達は城のあちらこちらに潜み、ある者はトラップの施工に精を出し、ある者は眠りについている。
そんな闇に溶ける様な真っ暗な城の、東棟に彼女はいた。





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「あっ…はぁ…っ…ん…」
「はぁ……はぁっ…はぁ…」

暗い部屋の中で、2つの人型が互いの身体を貪りあっていた。

男が仰向けに横になり、女が男の腰の当たりに跨って、身体を揺さぶっている。

聞こえるのは荒い吐息と喘ぎ声、それとベッドの軋む音に混じって聞こえる水音だけだ。

「私…もう…だめぇ!!!」
「うぁ!」

女が叫び、男が呻き声を上げて、2人の動きは止まった。
いや、正確にはどちらも身体を僅かに痙攣させている。

男は彼女の中で精を放ち、彼女はそれを受け止める快感に体を震わせた。
女の体内に吐き出された白濁した粘液は、ゆっくりと彼女の紫の身体に溶け込んでいった。

「ラルム……私の中…気持ちよかったのね…」
「…当たり前だろ…カオリ」
「んふっ…嬉しい」

ラルムと呼ばれた男は彼女の下で荒い息をついてた。
カオリと呼ばれた少女は片手で自分の下腹部を撫でながら、空いた手でラルムのお腹を撫でていた。

彼女は体を倒し、彼に寄りかかると、そっと唇を重ねた。


だが、唇や舌を絡めあう前に、彼女は彼から離れてしまう。


「?」
「ごめんね…これからお仕事」
「あ…うん…いってらっしゃい」
「行ってきます、ラルムはゆっくり寝ててよね、明日も予約が入ってるんでしょ?」
「…だね…」

ダークスライムの少女はこれから、城内に仕掛けるトラップや魔術の施工に行かなければならなかった。
一方の元人間の男は明日、最低でも10以上の魔物達と身体を重ねなければならない。

「それじゃあ、また明日ね…貴方♪」
「ああ、また明日」

扉が開かれ、紫の彼女は扉の向こうの闇の中に消えた。
彼は気だるげに起き上がり、浴室へ向かった。



2人は最近婚約した魔物とインキュバスのカップルだった。
元々、親魔物派側で運営されているギルドの構成員であり、今回の作戦に当たり召集された。

カオリはジパング出身のダークスライムである。
当時ジパングで修行を積んでいた今の主に見出され、行動を共にするようになった。
道中の苦楽を共にして随分経つ。
今では主にとって必要な魔術要員であった。

一方のラルムは親魔物派のとある国出身の元人間である。
魔王交代後の大戦の最中、20人ほどのサキュバスに3日3晩輪姦された結果、インキュバスとなっていた。
それ以来、親魔物派として戦いに赴いたり、戦後創立されたギルドのメンバーに志願したりして現在に至る。

カオリと出会ったのはこの城に来る前、親魔物領内で今回の作戦の参加者を募集していた彼女にギルドで鉢合わせたのがきっかけだった。

それ以来、カオリは主からの仕事をこなしながら、ラルムはギルドの任務をこなしながら出会う時間を重ね、ついには婚約を結ぶに至った。

彼が彼女に婚約指輪を送るのと、親魔物派ギルドが作戦決行のために人員を召集したのはほぼ同日のことであった。


ラルムは浴室に湯を張り、身体を流す。
自分の体液や彼女の粘液を洗い流した。

蛇口からの水は地下から汲み上げられ、魔術道具を用いて煮沸している。
彼は身体を綺麗にし、次の仕事までの間、ゆっくり寝ようと考えていた。


彼の仕事は300を超える魔物達への精(魔力)の供給だ。
もちろん彼以外にもインキュバスや人間がこの城に滞在し、彼女達へ精を供給している。

ラルムは寝巻きに着替え、ベッドに横になった。
思案に耽りながらまどろんでいく。

(確か、明日はラージマウスが3人とBスライムが2人、ゾンビが4人
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