魔炎の都市は空気が悪い……、と言われることもある。確かに、彼女が管理しているとはいえ、大きな火山だからガスは出るし、工場の煤煙も気になるところだろうが、見てほしい。ここの住人がどれだけ生き生きと遊び、働き、人生を楽しんでいるのかを。断言する、むしろこの街の空気は体にいいってな。
路面電車からこの街を見てみよう。チンチンと鳴るベルに、ガラガラとモーターが回る音と、揺れ、最近走り始めた自動車というもののエンジンの振動、どこからともなく流れてくるギターの音色、そして何より、何万何十万もの市民たちの話し声、賑やかだろう。建物も、色とりどりの石を積んで作られ、窓も大きい。商店の看板もそんな街並みに埋もれまいと、それぞれレタリングも凝っているし、色遣いも派手だ。一目見ただけでも、他の街とは違う雰囲気を感じ取ってもらえたのではないかと思う。
荒野に小さな家を建ててから、職人たちを招いて工房を開き、道も鉄道も敷き、商人が自然とやってきて服も飯も売りはじめ、最初は大変だったが、いつしか人も魔物も次々と集まってくるようになった。外輪街も際限なく広がって、皆が不便な思いをしていると聞いて、こうやって路面電車を敷いたりしてな。今度は百貨店も建てる予定だ。ここ一帯で最高の街を作る、それが目標だからな。
俺はもともと鍛冶屋の息子だった。親父は農具やナイフを作っていた。小さな頃から実家の工房を継ぐことを自然なものとして受け入れていたが、十六歳くらいの頃にどうせ鍛冶屋をやるなら色んなものを作りたいと思って、修行に出たんだ。
街から街へと渡り歩いて分かったことがある。親父のスタイルのまま鍛冶屋を続けていたら潰れるとな。日常で使うものほど、工場で大量に作られた安い製品に取って代わられる。そこで自分が鍛冶屋を続けるか、迷いが生まれたんだ。別のことをした方がいいんじゃないかって。そうは思うけれども、具体的に何をしていいか分からなくて、新しく世話になった工房の親方に言われるまま働いていたよ。
何年も働いてて、気が付いたらある程度貯金ができていた。丁度そのころ、親方と意見がぶつかることが多くなって、辞めるってことになったんだが、ある噂を聞いたんだ。
「あの火山の周りからはいい鉄鉱石が出る」
ってな。どうせ無職になったんだ。身軽になったってもんさ。一山あてるぞってことで、借金して、荷馬車を買って、すぐ向かったよ。
そのときはまだ、最後の大噴火から10年そこらしか経ってなかったことと、魔物が出るようになったということで、その火山に人間はあまり近づかなかった。ただ、そのときの俺は若かくて、少しのリスクくらいどうにでもならあ、チャンスがあるなら掘り起こさないと損だと思っていたね。しばらくの間、大体三か月くらい、小屋を建ててそこを中心に、湧き水を汲んだり、炉を作ったり、薪を集めたり、石を集めたりする生活を送っていた。ああ、何もないなら、一週間ぐらいで引き上げただろう。噂通りな、いい鉱石が出たんだ。
これなら投資家も話を聞くだろうと思って、いくつかの標本もまとめて、王都に出向こうかと準備していた、その夜だった。ふと窓の外を見るとな、山が赤く光ったんだ。おまけに、小屋の中にいても感じられるぐらいの熱気がした。どうしたもんかと思ったね。これで噴火するとなったら、金も時間も全部無駄になる。
山は夜通し光っていた。冗談じゃない。あのときは熱くなって、俺、どうにかしていたんだな。やけっぱちになって、朝日が昇るや否や、火口がどうなっているのか見に行こうと思って山を登り始めたよ。岩がゴツゴツしていて、登山道もない。おまけにどんどん熱くなってくる。引き返そうとは思わなかった。むしろどういうわけかな、体中力がみなぎって、踏んづけた石がゴロゴロ斜面を下る中、ずっと休憩なしで太陽が真上に来るまで歩き続けた。
高度が増すにつれて、空はより濃い青に染まっていく。全身汗だくで、登りきった火口にはとんでもない景色が広がっていた。この世ではなくなっていたんだ。溶岩の体を持つラーヴァゴーレムに、炎を纏うイグニス、そいつらがうじゃうじゃいた。呆気にとられたね。もう仕事どころの話じゃねえ。こんなところ、そりゃ、怖がって誰も来ねえはずだって、思ったね。もうこのままだと残るのは借金だけだ。
「やっほー。こんなところまで山登り〜?」
軽薄そうな声だ。しかも、女。魔物が声をかけてきていると一瞬で分かったね。それで、振り返ると、いたんだ。一目見て思った、こいつは魔物どころの騒ぎじゃない。悪魔が目の前にいるって。
怖かったわけじゃないんだ。むしろ、その、オレンジ色の燃えるような瞳と目線があったその瞬間、全身が燃え上がるような、そんな感覚に襲われたんだ。溶けた鉄を扱っているときの
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