ある火山学者の手紙

 この大学で一番の変人はフローレンスだというのは、院生時代からずっと言われてきたことである。私としては火山を中心に扱う専攻に進めば自分と同じような人間と出会えると思っていたのにがっかりだった。それでも、昨年、私と同じように溶岩の魅力のわかる××くん(学生本人の家族の意思により伏字)と出会えて、後進を育てることにやりがいも感じ始めていたのだが、それもどうでもよくなるような素晴らしいことが起こったのだ。

 大体皆はどうして溶岩の魅力に気づけないのだ。あのどろりと蕩け、艶やかに赤く光り、熱を発する妖艶な溶融物にどうして興奮できないのか。自分が死ぬなら溶岩流に埋もれて死にたいと、同志を見つけるために受け持ちの講義、フィールドワーク、実験と様々な場面で学生たちに語り掛けるのだが、学生からも教員からも気まずそうにされるのは不服であった。しかし、そんな私を火山雷に打たれたような顔、夜中に見る火山弾のようにきらきらとした目で見ていたのが××くんであった。君にも私と同じような素晴らしい出会いをしてほしい。そう思って私の妻とこの石板を鋳造している。



 あれはつい最近、〇〇(安全のため伏字)へ、ついには私の愛の棲み処の入り口となる場所の溶岩湖の調査をしていた時の話だ。夕飯のレトルト食品を食べ終わり、物資の補給と休憩のため麓へと降りた助手と院生たちはちゃんと予定通り帰ってくるだろうかと考えながら、地震計とカメラ、サーモグラフィーの点検を済ませて溶岩湖へ近づいた時のことだった。

詳しいことを話す前に書いておこう。私は一日の終わりには溶岩を眺めながらデカフェのコーヒーを飲むのが好きで、習慣になっていた。幻想的な光景を眺めながら、コーヒーと溶岩の熱に当たり、いつも、いつも「綺麗だなあ」と呟くのだ。そうしてテントでコーヒーを淹れて火口へ戻ったとき、溶岩湖の雰囲気がいつもと違うことに気が付いた。

 周りが暗い中で熱いものを見ると昼間より明るく光って美しいなんてことはよくある。しかし、あのときの光景はそんなもの以上であった。彼女が溶岩湖の真ん中にいたのだ。言い表すに、彼女は全身が溶岩で形作られ、豊かで重そうな、とろりと柔らかそうな乳房と太もも、大きくて気持ちよさそうな手、赤熱する舌、そして蕩けた表情をして現実離れした美しさ、あれはまさに火山の女神が目の前に現れたとしか思えないほどのものであった。あれは人が絵に描けるものでなければ、言葉にすることもできないものだ。

 ただただ息を呑んだ。心を奪われた。こんな陳腐な表現しかできない自分が嫌になるが、彼女の魅力に飲まれて頭がボーっとして、コーヒーカップを落としてしまった。彼女の熱が火口の崖の上にも伝わってきて、全身に熱い何かが渦巻き、血は煮えたぎるようで、息も荒くなり、手足は震え、愚息は固くなっていく。何も考えず、一歩一歩火口へと足を進める。それを見た彼女は蕩けた笑みを私に向ける。これは行かずにいられない。私は呼ばれているのだ。そう思った。そしてついに、私は火口の崖から飛び込んだ。

 空中で時間がゆっくりと進む。溶岩へと真っ逆さまに落ちていく。普通の人には恐ろしかろうが、その時の私は高揚していた。歓喜に満ち溢れていた。彼女から、溶岩の湖から受ける熱が気持ちよくてたまらなかったからだ。落ちていく途中にも興奮は増していく。そして、さらに、その興奮を煽る出来事が起こったのだ。

 湖面のグラグラと暴れる溶岩から次々と女体がその形を結び、数えきれないほどの彼女で覆われてしまったのだ。初めて彼女を見たときは体のところどころに冷え固まった溶岩のようなものが付いていたが、今度は全身が赤く、まるで全裸であった。そんな彼女たちが花嫁の投げたブーケを掴み取ろうとする結婚式の招待客のように、それぞれ私を受け止めようと手を伸ばすのだ。

ドバン……、ぶぐむにゅどろぐぢゅむゆみゅどろとろり。

 そんな音とともに、柔らかくも液体のようであり、それでいて弾力もある不思議な感触が全身を包み込んだ。あれだけの高さから溶岩へ落ちればコンクリートに落ちたような衝撃を受けるはずだが、溶岩は粘性を持ちながらも柔らかく私を受け止めてくれた。私の着ていた服はボッっと音を立てて燃え上がり、溶岩の中で炎の泡となって上って弾ける。そして、私は浮かび上がりながらも裸に剥かれた形となり、そこから遅れて全身に容赦のない、暴力的な熱が襲い掛かった。その熱を受けて先ほどよりも全身の火照りはムラムラと激しくなって、愚息は痛いほどに、何よりも普段の勃起ではありえないほどにまで大きくなってしまう。それに、全身がゾワゾワジュンジュンと気持ちがいい。

 そして、溶岩の水面にまで上がったとき、いきなり前から抱き着かれるような感触があり、接吻を受けた。彼女だ。先ほどよりもも
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