○△○□--プロローグ--□○△○
彼女を見つけたのは3年も前の話になる。
古代遺跡、と一言で言えば簡単ではあるが、いわゆる失われし時代の遺産が眠る遺跡はそうそう見つかるものではない。
仮に見つかったとしても、殆どが盗掘済みで、残っているものなど精々拾い零し程度のものだ。
物が残っているとしたら、2つに1つ。
つまり今もなおセキュリティが生きていて侵入者を容赦なく排除しているか、運良く他者に見つかっていないかだ。
彼女と出会ったのは後者の遺跡だった。
殆どが埋もれ、探索できる部分等ほとんど無い遺跡。
それ故に彼女が眠る遺跡は放置されていたのかもしれない。
小さな部屋の奥底で、彼女は不思議なガラス製のシリンダーの中で静かにその時を待っていた。
コポコポと、時折気泡が湧きだつ、成分も分からぬ液体に満たされたその中で、彼女は静かに眠っていた。
彼女を起こせたのは偶然だったのか、それとも誰にでも起こせたのかは今となっては分からない。
彼女が眠る筒の前のパネルに手を重ねる。
それが彼女を目覚めさせるためのアクションだったから。
ゴポゴポと音を立てながら、彼女が眠るシリンダーを満たす液体が抜けていく。
すべての液体が抜けた後、シリンダーもゆっくりと沈み、彼女だけが取り残された。
ゆっくりと目を開けた彼女と目が合う。そして彼女はゆっくりと口開く。
「システム、オールグリーン。起動シーケンス異常ナシ。セルフチェック……一部問題アリ…軽度、改善不要。コレヨリ認証シーケンスニ移行…創造主ノ生体認証、登録開始」
彼女が何を言っているかは全くわからなかった。
こちらをジッと見つめる瞳は、自分の全てを見透かすようだった。
生命の息吹を感じないその瞳に吸い込まれるような、不思議な感覚を感じた。
それでいて、彼女自身はまるで生きている人間と思えるほどに生気を感じるという矛盾した存在。
そんな彼女は暫くこちらのことを観察すると、また何かを小さく呟いている。
何を呟いているかは分からなかった。人が聞き取るにはあまりにも早すぎて、あまりに難解だったから。
そんな彼女の呟きが終わった後、彼女をはゆっくりと瞳を閉じ、そしてゆっくりと開く。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「はじめまして、貴方が私のマスターですね。私はYggdrasillプロジェクト第3世代、コードネーム:Ymirと申しましゅ」
「(噛んだ!?)」
失われた技術の結晶であるはずの、どこか残念な彼女との出会いだった。
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○△○□--残念な朝--□○△○
ちゅんちゅんと小鳥のさえずりが聞こえ始める朝。
まだ太陽は東の山間から漸く頭を覗かせた程度。
時刻で言えば、まだ6時を迎える少し前と言ったところだろう。
彼女はゆっくりと立ち上がると、ベッドでスヤスヤと眠る彼女のマスターの元へと向かう。
気持ちよく眠る彼を起こすのは、どこか気が引ける思いだが、起こさないわけにも行かない。
「マスター、マスター。起きて下さい。定刻となりました。」
「んぅ……んん?…ユミ…リア…?」
「はい、マスター、私です。起きて下さい。」
ゆさゆさと彼の身体を揺らし、起きるように促す。
カーテンを開け、外の光が入るように、彼の目が覚めるようにと、テキパキと行動する。
「マスター、眠いところ申し訳ありません。ですが寝坊を許すわけにも行きません。さぁ、起きて下さい」
「あの…ユミリア…」
「ふふ、今日も太陽が元気なその顔を覗かせております。気持ちのよい朝ですよ」
「あの。あのね…ユミリア…聞いて…」
眠そうな彼が、必死に起こそうとする彼女にまったをかける。
「どうなさいましたか?マスターともあろう方が」
「あのね…ユミリア…時間ぴったりに起こしてくれるのはとてもありがたいんだ。いつも、本当に感謝しているよ」
「お褒めに与り光栄でございます」
「でも今日は日曜日なんだ」
「………」
「昨日寝る前に、起こさなくていいよって言ったよね…?」
「………」
「何か言いたいことはある?」
「ご安心下さいマスター。私には古今東西、ありとあらゆる時代の子守唄を備えております。マスターが気持ちよく眠りにつくその瞬間まで歌い続けることが……」
「言わなきゃいけないこと、あるよね?」
「………申し訳ありません」
「ん…いい子だね」
そう言って、頭を下げた彼女を優しく撫でる。
基本的に無表情に近い彼女だが、どことなく気落ちしている時というのは、この3年で随分と理解できるようになった。
「ほら、おいで」
布団をめくると、彼女をベッドへと誘う。
オートマトンである彼女は眠る必要はないが、人と共に暮らすための機能として、擬似的に眠
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