貴方に思いを

「ふふ、どうですか皆さん?上手にできてますか?」

バレンタインデーから少し経ったある日、街のとある場所で開かれたお菓子教室には多くの参加者がいました。
お菓子教室の先生は、角や尻尾が生えたサキュバスと呼ばれる魔物のお姉さんでした。
お菓子教室に参加している人は、よくよく見てみると男性が多めという不思議な光景でした。
慣れないお菓子作りに四苦八苦しながらも、皆真剣な表情で手順や分量を覚えようとしています。
そう、この日開催されたお菓子教室はホワイトデーのお返しを贈る人向けのものでした。
勿論、カップルで参加している人もいるようです。

「ふぅ…慣れてないってのもあるが中々難しいな…あとはこれとこれを混ぜて…っておい!」
「にひひ、隠し味隠し味♪」
「おまっ神楽、今何入れた!ってもはや隠してすらいないじゃないか!」
「なーにせっかくだから美味しく面白くってね、ひひ」
「…真面目にやらんとホワイトデーのお返しはチョコに似た別の何かになるぞ」
「そんときゃ龍樹の濃厚なホワイトチョコをたっぷりくれればいいさね
#9829;」
「……頼むから外でそういう言動は謹んでくれ」
「にひひ♪」

どこか手玉に取られながらも決して嫌という雰囲気ではない二人へと、サキュバスのお姉さんが近づきます。
二人が浮かべる笑顔につられるように、お姉さんの顔にも笑顔が浮かんでいました。

「あらあら、随分と楽しそうですね、ふふ」
「あ、先生…すいません、ウチのが迷惑を…」
「そんなことありませんよ…あら、これは……陶酔の果実の果汁かしら?…ふふ、素敵な隠し味になるわね」
「ほれほれ、見たことか、先生のお墨付きさね」

勝ち誇った顔で嬉しそうな笑みを浮かべる彼女に、お姉さんは嬉しそうに言葉を続けます。

「大好きな人と一緒に愛に酔いしれたい、好きで好きで堪らないって思いが良く伝わってきますよ♪」
「……だそうだが?」
「…ひとに言われると、どうしてこうもこっ恥ずかしいんだろうかね…ひひ♪」

彼と同じくらい顔を赤くした彼女は、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうな笑みを浮かべていました。
そんな二人を過ぎたお姉さんは、慣れないお菓子作りに挑む人へ助け舟を出しながら、優しく作り方を教えていました。
何度か教室を周る頃には、全員何とかお菓子作りを終えていました。
上手にできた人、まだまだ練習が必要な人と様々でしたが、皆満足した顔を浮かべていました。
そして作ったお菓子を味見しながら、今日のお菓子作り教室は幕を閉じました。
嬉しそうな顔を浮かべて帰っていく人たちを、お姉さんは優しく見送ります。

「先生、ありがとうございました。ウチのアホが変なの入れたせいで味見出来ませんでしたが…」
「にひひ、家でたらふく食べればいいじゃないか、あたしの愛情たっぷりさね♪…先生、楽しかったよ、ありがとね」
「くすくす、とても仲睦まじくて羨ましいですね、ふふ♪」

嬉しそうな笑みを浮かべて帰る人、何度もお礼を言う人、また参加することを伝える人。
そんな人達をお姉さんは嬉しそうな笑みを浮かべて見送ります。
そして最後の一人を見送ると、シンとした教室の中でお姉さんは一人、ポツリと呟きました。

「一人くらいはもしかしたら…って思ってたんだけどなぁ…」

誰か一人くらいは思いと共に自分に渡してくれることを期待していたお姉さんでしたが、毎度の如く誰も渡してくれる人はいませんでした。
少しだけ悲しげな表情を浮かべたお姉さんでしたが、気持ちを切り替えると後片付けをすることにしました。


片付けが終わり、自分のお店へと帰るお姉さん。
もうすぐお店に到着する、そんな時でした。
ふと自分のお店の前に誰かが立っているのが見えました。
近づいて見ると、ショーウィンドウに飾られたお菓子を張り付くようにして見ている少年がいました。
まだ幼い少年は目を輝かせながら、色とりどりの美味しそうなお菓子を見つめていました
後ろからゆっくりと近づくと、窓にお姉さんの姿が反射したのか、慌てて少年は振り向きます。

「ふふ、こんにちは」
「あ……あの、こ、こんにちはっ」
「くすくす、素敵な顔で見てたわね。お菓子が好きなのかしら?」
「え、えっと、うん…」
「もし良かったら中で見る?ここお姉さんのお店だから」
「…いいの?」
「えぇ、勿論♪」

お姉さんはどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら、お店のドアの鍵を開けて少年を手招きします。
「close」表示のドアプレートを「open」に変え、少年と一緒にお店の中へと入っていきました。
お店の中は甘い美味しそうな匂いでいっぱいでした。
少年は先程よりも目を輝かせながら、お店に置いてあるお菓子を夢中で見ていました。
自分の作ったお菓子をキラキラとした目で見つめる少年を見て、お姉さんも思わず
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