「あぁ、そっか今日はバレンタインデーだったんだなぁ…」
「バレ…タイ?でー?」
「そうそう、バレンタインデー」
テレビを見ていた彼が小さく呟いた言葉は、彼女の耳にも届いていました。
バレンタインデーが何であるかを理解できない彼女は、首を傾げていました。
ゾンビとして目覚めてからまだ間もない彼女は、あらゆる事が新鮮で、そして未知のものでした。
そんな彼女を、愛おしそうに微笑みながら優しく彼が頭を撫でています。
「好きな人へチョコレートを贈る日だよ」
「ちょ…こ…?」
「そう、チョコレート。甘くて美味しいお菓子だよ」
「お菓子…甘いの…えへぇ
#9829;」
「ふふ、リナは甘いの好きだよねー」
子供のような無邪気な笑顔を浮かべる彼女はとても嬉しそうです。
そんな彼女をみて、彼も嬉しそうな笑みを浮かべます。
「んー僕もたまにはチョコでも買ってこようかなぁ…」
「こーた…ちょこ…好き?」
「んーリナ程じゃないけどね、好きだよー」
「すきぃ…一緒…えへぇ
#9829;」
彼と同じものが好きだったことが嬉しかったのか、彼女はまた嬉しそうな笑みを浮かべました。
そんな彼女を飽きること無く撫でていた彼ですが、ふと時計を見上げると出かける時間になっていました。
「あ、いけない。そろそろバイトに行く時間だ」
「あぅ…こーたぁ…」
「ごめんね…終わったらすぐ帰ってくるからね」
「ぁぅ…気をつけ…て」
「ん、ありがと。リナも何にかあったら、すぐにこれを鳴らすんだよ?」
「あぃ…こーた、いって…らしゃ
#9829;」
「ふふ…行ってきます」
彼が彼女の首に掛けたものは、防犯ブザーに似たものでした。
それは偶にフラフラと何処かへ行って帰れなくなってしまう彼女を見つけるための目印となるものでした。
鳴らせば彼女の位置を、彼の携帯へすぐに教えてくれるものです。
彼を玄関まで見送った彼女はトコトコと居間へと戻ると、先程のバレンタイン特集が流れているテレビを夢中で見ていました。
色とりどりの、甘くて美味しそうなチョコレートに釘付けです。
そんな中、テレビのパーソナリティのお姉さんが発した言葉が彼女の耳に届きました。
―――――大好きな彼へのプレゼント
その言葉と、彼の言葉を彼女は思い出します。
「こーた…ちょこ好き…プレゼ、ト…渡す…えへぇ
#9829;」
嬉しそうな笑みを浮かべた彼女はゆっくりと立ち上がると、洋服ダンスへと向かいました。
引き出しを開けてごそごそと何かを探しているようです。
しばらくすると、彼女は目的のものを見つけたようで、とても嬉しそうな笑みを浮かべています。
彼に買ってもらったお気に入りの洋服に着替えると、彼女はくるくると嬉しそうに回っていました。
しばらく嬉しそうに回っていた彼女ですが、満足したのかゆっくりと玄関へと向かっていきます。
プレゼントを受け取った彼がどんな笑顔を見せてくれるのかを想像しながら、彼女は嬉しそうに外へと出ていきました。
財布も持たず、そしてチョコがどこに売っているのかも知らないままに……
寒い風が吹く中、彼女はとても楽しそうな笑みを浮かべながら歩いていました。
街の中はどことなく甘い匂いが漂い、彼女のように笑みを浮かべて歩いている人が沢山いました。
そんな中、ふと彼女が歩みを止めました。
彼女がじっと見つめた先は、チョコレートのような色をしたお店がありました。
にへらと嬉しそうな笑みを浮かべた彼女は、その店へと入っていきます。
「オーダーメイド アラクネハウス」と書かれたそのお店へと。
「えへぇ…ちょこぉ……ぁう?」
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。随分嬉しそうだな」
嬉しそうな笑みを浮かべて入ったお店は、彼女が思っていたものとは全く違いました。
先程テレビで見た色とりどりのチョコに負けないくらい、綺羅びやかな洋服がいくつもありました。
ですが、今彼女が欲しいものは、洋服ではなく愛しの彼へ渡すためのチョコレート。
嬉しそうな笑みは徐々に悲しそうな顔へと変わってしまいました。
「おっと…どうした嬢ちゃん?お気に召したものがなかったかい?」
「ぁぅ…」
「もし良けりゃカミさん呼んでくるぞ?嬢ちゃんにぴったりの服を作ってくれるぜ!」
「ぅー…ごめな…さい」
「……どうした?」
「ぅぅ…ちょこ…プレゼト…」
「…あー…ん?嬢ちゃんもしかしてウチでチョコでも買いたかったのか?」
「ぁぅ…う…」
「あー…そのなんだ、申し訳ねぇがウチじゃチョコは売ってねぇなぁ…」
「ぅ…ごめな…さい」
「…チョコは彼氏へのプレゼントかい?」
「ぅん…こーた…あげるの…」
「そうかい……ふむ、ちょっと待ってな」
そういうと、店主はごそごそと何かを探し始めました。
首をかしげながらそれを見ていた彼女ですが、しばらくす
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