週末の短い休みが終わり、なんとなく気だるさを覚えながら出社したのは今朝のこと。
彼が背中に痛みを感じたのは昼過ぎだっただろうか。
体調が良くないと感じ始めてはいたが、社会人になってからは弱音は容易く吐くことは出来なくなっていた。
やがて寒気すら感じるほどになるころ、漸く今日の業務が一段落する。
いそいそと帰り支度をし、帰る直前で漸く体調不良を上司へと告げる。
幸いにも社内で流行病が蔓延している所為か、渋い顔をされながらも翌朝病院へ向かうことを許される。
残り本数の少ない電車に揺られながら自宅へと戻る頃には、もはやふらつき歩くことすらままならない程になっていた。
自宅にあった市販の解熱剤を飲み、倒れるようにベッドへと横になる。
寒気と暑さにうなされながら、少し寝ては起きてを繰り返し、気がつけば外が明るんできていた。
熱を再び測れば40度近くまで上がっており、視界は歪み吐き気と頭痛まで襲うようになっていた。
もはや病院に行くことすら困難な状態となっていながらも、社会人としての悪しき風習が身に染み付いた結果、会社への連絡だけはなんとか済ましていた。
もはや死という文字すら脳裏に浮かび始めるころ、彼の口からは小さく救いを求める言葉が無意識に出ていた。
「誰か…誰か助けて…」
荒い呼吸が、彼の状態が非常に危険であることを物語っていた。
虚空に手を伸ばし、自分が何を呟いているのかも理解していないままに、呟く。
「神様…助け…駄目なら…までも…い…から」
何故手を伸ばしていたのかは分からなかった。
縋るような思いがそうさせたのか、それとももっと別の何かを感じていたのかもしれない。
やがて手を伸ばす力すら無くなり、重力に従い落ちる彼の腕。
その腕は、ベッドに当たることはなかった。
熱で全身が火照っているせいか、少しひんやりとした、心地よい感触を腕に感じていた。
熱で働かない頭をその感触の方へと向けると、そこには自分以外の存在があった。
ぼやける視界では上手く見ることが出来ない、青い何か。
必死にそれが何であるかを理解しようとしている時、彼の耳に声が届く。
「んー…なんか呼ばれたと思って来たんだけど…随分と大変な感じね、大丈夫?」
まだ幼さを含む、少女を思わせるような声。
彼の顔を覗き込むように、首を傾げながらその顔を近づける。
ぼやける視界の中で漸く、その青い何かは人に近しい、人とは全く異なる生き物であることを理解する。
熱のせいで声を上げることも何も出来ない彼を他所に、それは己の額を彼の額に重ねる。
腕に感じた感触と同じ、すこしひんやりとする心地よい温度。
「あらら…凄い熱ね。大丈夫?私の事わかる?」
「ぅ…お願…助け…」
「……ふふ、分かったわ。良い物取ってきてあげるから、ちょっとだけ待っててね」
嬉しそうに笑った後、その青い何かは彼の額に優しく口づけをすると、彼の視界から消える。
視界から消えたそれを追いかけようと動かせる範囲で首を動かすが、その姿はどこにもなかった。
熱が見せた幻だったのかもしれない。
そのまま彼は力尽きたかのように、視界は闇に閉ざされ、意識は彼方へと吹き飛んでいた。
…………
目を覚ましたのは、頭部に心地よい冷たさを感じたからかもしれない。
額に手を伸ばせば、冷たい水で絞られたタオルが乗せられていた。
枕はいつの間にか氷枕へと変えられており、先程よりも幾分頭痛や吐き気も収まっていた。
蹴飛ばしていた掛け布団はきっちりと彼の身体にかけられている。
一体誰がやってくれたのか、そう思っていた時だった。
「あら、良かった。目が覚めたみたいね」
「え…?」
額のタオルを落とさないようにしながら、声のした方へと向くと、そこには彼女が居た。
人とは異なる青い肌。
幼い少女を思わせる風貌だが、身に纏う衣装は膨らみかけの胸と秘部を申し訳程度に隠す程度の高い露出。
腰からは【悪魔】という単語を聞いて思い浮かぶような羽と尻尾が生え、彼女の動きに合わせて動いている。
赤い瞳から感じる力強い視線は、どこか肉食獣を思わせるような、身震いするような視線。
ツインテール調のすみれ色の髪の毛と、頭部から生える翼に似た角。
所々にある髑髏を象った装飾が、一層【悪魔】という思いを強くする。
「ひっ!」
「あっ!人の顔見て驚くなんてひっどーい!失礼しちゃうわ、まったく」
思わず声を上げてしまった彼に対し、手を腰に当て頬を膨らませて怒っていることをアピールする彼女。
だが、すぐに笑顔に戻ると彼の首元に己の手の甲を当て、彼の体温を確認する。
「んー最初のときより、ほんの少しだけ良くなったかしら?」
「あ、あの、君は…」
「ん?私?……そうね、まだ自己紹介もしてなかったわね、ふふ」
口元を隠しながら、どこか大人びた笑いを浮かべ、彼
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