致命的な速さで迫り来る剣戟を前にしても、ヴァネッサは一片の恐怖心も抱く事はなかった。
左から槍が、少し遅れて右側から剣が肉薄する波状攻撃がヴァネッサを襲う。
(……速い。でも今の私なら、いける)
こくん、と喉を鳴らす。
口の中にわずかに残った至高の「食材」が食道を通過していく。
それだけで全身から溢れるほどの力が四肢へ伝わっていくのを感じる。
今なら誰にも負ける気がしない、そう思うほどの昂揚感がヴァネッサを支配していた。
「どぅぁぁぁっ!!」
長身の騎士の槍が繰り出された。
その矛先は真っ直ぐ頭部へ向かっている。憎悪と怒りで凝り固まった、直線的過ぎる軌道。
当たれば必死確定のその一撃に、ヴァネッサは勝利を確信した。
(よく狙って……ここっ!)
「おぼっ!」
軌道が読めれば回避は容易い。
半身を捻り紙一重で一撃を避けたヴァネッサは、篭手に包まれた裏拳を不用意に踏み込みすぎた顔に叩き込んだ。
自らの突進によるスピードが乗った拳に鼻骨がへし折られる音と共に長身の男が地に伏せる。
(あと一人)
拳を繰り出した反動を殺さずそのまま右へ剣を振り抜く。
しかし、その先にあの巨躯の騎士はいなかった。手ごたえが伝わらず剣は空を切る。
(消えた!?)
「ヴァネッサ、下だっ!!」
「!!」
後ろからレイの声が飛ぶ。
目だけを下に向けると、地を這うように体を沈ませる年長の騎士がそこにいた。
力押しの突進と見せかけた、見た目にそぐわない俊敏なフェイントだった。射程圏内に潜り込んだその体勢から、攻撃態勢に移行しようとしている。
次の瞬間には、ヴァネッサに刃が届くだろう。
(けど、ここで負ける訳には……いかないっ!!)
今も後ろで事の行く末を見守っている、軽薄でスケベで、そして自分のために命を賭けてくれたバカな男のためにも。
「はぁぁぁぁぁ!」
年長の騎士が剣を閃かせようとするその刹那、思い切り膝を引き上げた。
「がぁっ!!」
膝頭が再び顔面、それも急所である鼻の下に直撃した。
衝撃に仰け反った年長の騎士が、鼻血を撒き散らしながら倒れていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を整え、痛みに呻く騎士二人を冷めた目で見下す。
「ぐ……お……」
「うぅ……てぇ……」
時折痙攣のように体を震わせ悶絶している。これではどちらもすぐに戦闘は無理だろう。
(勝った……っ!)
− − − − −
「やったな!ヴァネッサ」
興奮まじりの声でレイが駆け寄ってくる。
「お前、本当に強かったんだな」
「……だから言ってるでしょう。こんな奴らひとひねりだって」
レイに対して大きく息をついて、ゆっくりと答えた。
「え、あ、ああ。そうだな……」
その態度にレイは小さな引っかかりのような物を感じ、戸惑ってしまう。
「なに?」
「いや、なんでもない……ま、それにしてもこれも俺の濃厚な精液のおかげだな」
その違和感を探るように、レイはかなり際どい軽口を叩いた。
普段のヴァネッサなら「な、なにをバカな事言ってんのよっ!!」くらいのセリフを吐きそうなものだが目の前のデュラハンは、
「……そうね。アレがなければ負けていたかもしれないわね」
と別段無理に我慢しているといった様子もなく、まるで普通の会話のように受け答えていた。
この言動には、レイも目をむいた。
「……お前さ、なんか雰囲気違くね?」
豹変したヴァネッサに、訝しげな視線を送る。
「……ああ、そういう事。私達デュラハンは、胴体の中にある精液を首で栓をしているの。そしてそれと一緒に本能や衝動、感情も抑えているのよ」
淡々とヴァネッサはレイの疑問に答えた。その様は理知的、冷静という言葉が当てはまり、首だけの状態からはとても連想できなかった。
「へぇ……これまた難儀な……って、こんな事している場合じゃねえ。早くここを離れて魔方陣へ行くぞ」
あの時下りていった新米が戻ってきてしまうかもしれない。それを懸念したレイが棒立ちのままのヴァネッサを促した。
だがレイの声を無視するかのように、ヴァネッサは未だに棒立ちのまま一点を見つめ、一歩も動こうとしない。
「……ヴァネッサ?」
「……」
「あ、おい」
不審に思うレイを尻目にその一点、ヴァネッサは二人の騎士へと歩み寄っていく。
(まさかこいつ……!)
ヴァネッサから今なお立ち上る殺気に、レイもようやく気づいた。
「ヴァネッサ!!」
二人の騎士達まであと数歩、という距離で歩みが止まる。
「……一応聞くが、なにする気だ」
「なにって、あなたが今考えている通りよ」
振り返りもせず、ヴァネッサは答えた。いつも聞く口喧しいあの声とは遠くかけ離れた、冷たく抑揚のない声だった。
「勝負はついたんだ。もういいだろ」
フッとヴァネッサが鼻で笑った。
「……もういい?まだよ。これで終わりじゃない。まだ私にはやるべき事が
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録