第3話 2日目その2「どうしてこいつはこんなアホなセリフほざけるんだ!?」

「……なんだよ、いーかげんに機嫌直せよ」
少し進んだ所で街道を外れ、指示された道なき道を進んでいるレイは、先ほどから理由も分からず激怒しているヴァネッサをなだめていた。
「……」
いかんせん当の生首はというと、レイから目を逸らし事務的に必要最低限の情報しか答えず、あとは無言を貫いていた。
(なんだよ、なんでこいつ怒ってるんだよ。わけわかんねー)
怒りの原因がまったく理解できないため、流石のレイもどう対応していいのかわからない。とりあえず、チラチラと様子を窺っているのだが、
「……っ!」
視線が合う度に逸らされてしまう。
(さてと、どうしたもんかね。視線が合うって事はこいつも俺を見てるって事とだし、言うほど怒ってねえのか?それなら……)
「はぁ……で、こっちでいいのか、お前の言う集落ってのは」
「……そうよ。このまましばらく行けば、集落の麓が見えてくるはずだわ」
普通の問いかけには無言だったが、必要最低限の情報ならば一応答えてくれる。ここから会話を広げていくしかない。
「だけどよ、まだ騎士達は駐屯してんだろ?どーすんだ、見つかったらおしまいだぞ」
「それに関しては、あなたが頑張るしかないわね」
「結局俺かよ……」
「そうなるわね。まぁ集落は別に柵とかないし、どこからも入れるようになっているから、見張りにさえ見つからなければ大丈夫よ。見つかっても、私の事がバレなければ大丈夫よ!」
(お、ようやくこいつもノッきたか)
事務的な声も硬さもほぐれ、いつもの調子に戻ってきたのを感じ、さらに会話を続ける。
「裏っ返せばバレたらそこで人生終了のお知らせって事じゃねーか」
「そうとも言うわね」
「そうとしか言わねえよ」
「と、に、か、く、頑張ってよね」
「へいへい。お前も、関所の時みたいなポカすんじゃねぞ。またオナホになりたくなければな」
「っす、するわけじゃないでしょ!このドスケベ!!」
顔を真っ赤にしてヴァネッサが怒号を飛ばす。漫才のよう掛け合いの応酬にもトゲがなくなり、ここでレイも訳の分からない居心地の悪さから解放された。
(はぁ……こいつの機嫌も直ってきたみたいだな。ったく今までのどれよりも面倒臭え女だな……)
荒れた馬をどうにか御した時のように深くため息をつくと、レイは手綱を握り締めた。
「まぁ、しょうがねぇか。ここまで来たら最後までやるしかねえし、さっさと行くか」
いつの間にか隣にいる存在を「女」と評している自分に気づかないままに。


− − − − −


(あ、この男のペースにノせられてる)
そう気づいた時には遅かった。先ほどまでの頑なな態度はあっさりと崩れ去り、気づけばいつものように憎まれ口を叩きあう状態に戻っていた。
(ううぅ……なんかこいつの前だと調子狂う)
いつの間にかデュラハン(笑)という存在になり下がっていたヴァネッサであったが、これでも魔王軍では中核を担うデュラハンとして、尊敬と信頼を一身に受けていた。そんなヴァネッサにとって、いいようにあしらわれているという事実は屈辱であった。
(それも、こんな軽薄でスケベな人間にここまでコケにされて、挙句オ、オナホって言われるなんて……)
自分もそれなりの年月を生きていたが、まさかオナホール呼ばわりされるとは予想だにしなかった。思い出すだけでも身もだえする(頭のみをプルプル震わせている)ほどの羞恥だったが、そのオナホで九死に一生を得たというのがまたヴァネッサを苛立たせていた。
しかし別段そこまでレイに非があるわけではないので、正面切って怒りをぶつける訳にもいかない。そのため押し黙る他怒りを紛らわせる手段がなかったのだ。
(だいたい、こいつはなんなのよ!人間って言うのはもっとこう……魔物に対して攻撃的なものじゃなかったの?)
魔物に対する人間の反応は大別して二つある。一つは「魔物死すべし」と高らかに叫ぶ反魔物派の人間。これは教会の影響が強い国家周辺での態度だ。そしてもう一つは「魔物と共に」とする魔物擁護・共存派の人間。文字通り、魔物と共に生きようとする派閥だ。
大半の人間は前者であり、襲撃にあった集落周辺の人間もそれに含まれていた。現に関所でレイと言葉を交わした商人も、魔物に対して嫌悪感をあらわにし、集落を襲撃した騎士達も皆、瞳に憎悪をたたえ猛然と剣を振り上げてきた。
各地の最前線でその嫌悪感を浴び、その刃を打ち払ってきたヴァネッサにとって、この目の前にいる男の態度は今まで相手にしてきた人間達とどこか違っていた。
(でも、共存派の人間ともどこか違うのよね……)
依頼を断った時、淡々と理由を述べていたレイの目を思い浮かべる。
騎士達と同じく憎悪という訳ではなかったが、好意的でもない不思議な目をしていた。
ところが断った直後、本当に死を覚悟したヴァネッサを前に一転、依頼を承諾して見
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