「こんな夜中に外に出ていては、何かあるのかと勘違いされてしまいまするよ?」
いつからそこにいたのか、山田殿が茂みの中から歩み出てきた。
「何かあるのはそちらのほうではありませんか?」
私はとにかく気丈な態度を崩さないようにしつつ、ヨシノを背後に庇った。ヨシノも私が心配なのか、背中からまわされた手が服をギュッと掴む。
「まったく、どこまで聞いておられるのかは知りませぬが、拙者らを人攫いか何かと思い違いをされているのではありませぬか?」
「現に2人も攫っているではないですか。」
「そんなことまで知られているとは・・・。」
山田殿はスッとヨシノのほうへ視線を向けた。今の山田殿はそれまでのものとは違う寒気を感じるものを纏っていた。
そんな視線を受けてヨシノはますます私の背に隠れた。
「わ、私は、もうこのようなことは・・・」
「吉野の姫には、後で『姫様』からお話があるそうです。」
自分の決意を言おうとしたヨシノの言葉を遮って告げられた言葉に、ヨシノはますます手に力を込めて黙ってしまった。
「ヨシノは関係ない!すべて私が自力で調べたことだ。」
「もちろん、ジン殿にもそれ相応の対応をしなければなりますまい。」
山田が挙げた手に呼応するように周りの影が音も無く立ち上がった。多い。見える範囲に8人。おそらくは背後にも迫っている。
「先の2人はどうした?私の前任者は?」
「あの方達なら娘達とそれはもう幸せに暮らしておりますよ。ジン殿も時期にそうなりますゆえ心配召されるな。そもそも、それほどまでに相思相愛なのに何故拒まれるのか?理解に苦しみますな。」
「私1人の話ならむしろ喜んでそうさせてもらう。だが、あなた達は私が紹介した人々も巻き込もうとしている。それを見逃せる筈が無い。」
とにかく時間を稼がなくては。何か作戦がある訳でもないが、それでも何か思いつくまで時間を稼がなくては。
「何故このようなことを!?こんな手の込んだことをしなくても外国人など幾らでもいるだろう?」
「吉野の姫から事情は聞いているのでは?まぁ、そうですなぁ。こちらとしても手荒なまねはしとうありませんから、話してご理解頂けるならそのほうがよいでしょう。」
(なんとか時間は稼げそうだ。さて、ここからどうするか。)
ついついっと、服を引っ張り、ヨシノが背中から小声で話しかけてきた。
「私が周囲の樹を暴れさせて時を稼ぎます。その間にお逃げください。」
私は軽く首を振ってその考えを否定した。
(無謀だ!相手はかなりの使い手だぞ!)
「時を稼いでください。」
だがヨシノは私の否定を無視して準備を始めた。
(クソ!!何かいい手は無いのか!?)
今手元にある物は護身用の両刃剣のみ。あとは商品の運搬用に覚えた浮遊魔術が使えるだけ。さすがにこれでは・・・。
「最初の不作が起きたときは、隣国のものの精を得るだけで何とかなったのです。だが、だんだんそれだけでは収まらなくなり、試しに異国の者の精を与えてみたところ、症状の改善が見られたのです。しかし、その頃この国を訪れる者はならず者ばかり。商人を通して良き人を得ようとしたが奴等は金ばかり求めて一向にこちらの要求に答えようとしなかった。どこか魔物も人間も公平に、親切に扱ってくれるところは無いかと捜し求めていた時に目に付いたのが・・・。」
「サバトか。」
「ご明察。サバトは自身の利益より世に魔物が増えることを望んでおり、未婚の男も多く入信していると知った時、これしかないと思いましたよ。いやはや、なかなか大変でしたぞ。自分の娘を犯してまで幼子を愛でるよう自らを偽るのは。」
包囲がじりじりと寄ってきている。ヨシノは準備ができているようだが相手に隙が無さ過ぎる。
「だが、拙者はすぐに失望しました。何せ本当に所謂ろりこんでしたかな?まぁ、その類の人間しか居なかったのですからな。あれだけ居ればましな趣味の人間の1人も居ようと思えたのですがね。先の2人も「俺は幼女にしか萌ねぇんだ!!」とか、「炉利ババアは居ないのか!?」など意味の解からんことをほざいて逃げようとしたので仕方なく閉じ込めただけのこと。それでも今では娘達の献身的な奉仕によって幸せな新婚生活を送っておられますがな。」
「残念だったな。サバトには真正のロリコンしかいない。」
「あなたは違うようですがね。」
山田はニヤリとほくそ笑み、冷たい眼光を飛ばしてきた。
「まぁ、しかし、如何に人員が不足していたとは言え、あの程度の偽装工作を気取られるとは我々も腕が落ちたものです。そのせいでサバトはこの国を警戒して商人を寄越さないようになったのですから。いやはや、太平の世と言うのも考え物ですなぁ。」
「サバトは確かにロリコンの集まりではあるが基本的には魔物の味方だ。最初から素直に協力を求めれば良かったのではな
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