事故物件?

 新たな風が舞い込むこの季節。何をしてても眠たくなる陽気と目や鼻を情熱的に刺激する黄砂を乗せた風が、あと1〜2か月もすれば訪れるであろう台風を予言する様に俺の部屋の窓を揺らす。
 そんな時期。
 親から離れた自由、友達との別れ、新たな出会い、期待、悲しみ、興奮、不安、いろいろな感情が胸を高鳴らせる新生活、俺の憧れのキャンパスライフが始まった。
 長かった、そう、ここまでの道のりは長かった。渋る親を説得し、勉強を頑張り、生活資金の為に大学近辺のバイト先を探してバイト代の何割かが消し飛ぶ程の通勤費を払いながら地盤を固め、安いが快適なアパートを捜し歩いて幾星霜(ほんとはそんなにかかってないけど)、俺の住処、愛の巣は完成した。
 俺の居城を侵すものは何もない、そう、この達成感と全能感、この俺《山下 六朗》の行く道を邪魔できる者はいない、いないはずだった!
 なのに!

『・・・。』

「(どぉーして俺の部屋の窓に誰かが貼りついてんだよーーーーーッ!!)」

 そう、俺は今、人生最大のピンチに陥っているのだ。(チラッ

『・・・。』

 ぐぐぐ、こうして振り返って見ても窓に貼り付く人影は身動き一つしない。思わずさっき叫び出しそうになったセリフを飲み込んで口パクだけで叫ぶが、そんな俺の奇人的行為にもまったく無反応のようだ。
 何故俺がこんなにビビッているのか、この状況を理解できない奴には理解できないだろう、俺だって理解できない、いや、したくない!
 俺が借りたこの部屋、大学には自転車で5分で着き、駅には徒歩5分程で着く好立地に在る。日当たりは良いし、周りは高級って程ではないけど住宅街で静かだし、コンビニにも近いし、更には、最近改装したそうで、水道水は地下水汲み上げで水道代がタダ、ソーラーパネルを置いてるから電気代も安くなるそうだ。しかも防音。普通ならバイトなんかじゃ賄えきれない家賃を請求されるような1Kアパート。それを月1万で借りた。
 思えば、これをまず疑うべきだったのかもしれない。1万とかwwwってテンション上がって聞きそびれたことがたくさんある。なんでこんなに安いのかとか、なんで改装したのかとか、所謂【事故】ってなかったですかとか、あの時の俺を殴りたい。

<サァー
          ビクッ>

『・・・。』

「・・・。」

 この時期エアコンは使ってない。隙間風があるようなちゃちな造りもしてない。なのにカーテンが揺れた。カーテンが揺れただけだ。ベランダにはカギが掛かってる。何も問題はない。間違えた、問題しかない。
 と、とにかく。この部屋は1Kの造りになっている。形としては玄関から入ると廊下に付属するようにキッチンがあり、トイレと浴室がその向かいに、奥のドアを隔ててL字に寝室がある構造だ。そして俺は部屋の奥にぴったりと収まるようにベッド置いており、今はその上でうずくまっている。
 つまりだ、ベランダの人影の前を横切らなければ部屋を出ることも出来ないということなのだ。
 フッ、その程度なら走って通り抜ければいいじゃないか、と思う奴もいるだろうな。確かにそうだろう、普通ならベランダのガラスを開けないと入ってこれないんだからそのまま走ればいいだろうとなるよなぁ?ベランダのガラスに貼り付いてるんだからさぁ。
 確かに張り付いてるよ。ベランダのガラスの【内側】にな!
 くっきり見えてんだよ!カーテン越しに顔や体のラインがくっきり見えてんだよ!まるで真空パックフェチのAVかの如くぴっちり見えてんだよ!なのにカーテンの裾からは足首とか指とかがまったく見えてないんだよ!どうすんだよ、こんなの!どうすりゃいいんだよ!?タ〇ンページでゴーストバ〇ターズ呼べってか!?

<シャァー
          ビクッ>

『・・・。』

「・・・。」

 カーテンがちょこっと開いた。しかも人影がある方が開いた。もういやお家帰りたい、あ、ここが家だった。もういや実家帰りたい。
 カーテンの隙間からは昼前の陽光が差し込み、完全に大学の講義には遅刻したことを否応なく認識させる。
 くっ!やはりこのままと言うわけにはいかない。幽霊って夜に活動的になったりするのかな?どちらにせよ、このまま夜にもつれ込むのは非常にまずい。そもそも、それまで何もしてこないと言う保証がない。ここは多少強引でも走り抜ける覚悟を決めなくては。
 俺は侵入者へと向き直る。背丈は160cmくらいか?足が無いから正確には解らんが、線も細そうだし175cmの俺からすればいつでも組み倒せる相手ではある。相手が幽霊だと言う点に目を瞑ればだが。
 質の割には薄い遮光カーテンだから、あれだけぴっちり貼り付けば、女なら出るところが出てすぐに解りそうなものだが、胸も平坦だし、しかし、男にしては肩幅が狭い。それに
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