¥プライスレス

「いらっしゃいませぇ〜♪おぉう!兄さんでっかぁ♪
 今日はえらい早い時間に来ましたなぁ?いつもやったら・・・」
「御託はいい。椿は?椿を早く出せ。」
「え?あっ、あ、椿ちゃんやね?それならすぐ降りて来るさかい、ちょっと待って・・・」
「さっさと出せ!」<ドンッ!
「きゃっ!」

 タヌキ顔の店員め。余計な話なんていらないんだよ。
 俺は受付のカウンターを力任せに叩いて怒鳴りつけた。
 いつもなら、待合室に通されてゆっくりテレビでも見ながら出された茶を啜り、今日は何をするかしてもらうかを妄想して、息子の準備を万端にしておくものだが。
 今日の俺にその余裕はない。
 あってたまるか。何故ならな、今日が・・・。

「クソッ!おい、部屋はいつもと一緒なんだろ?勝手に行かせてもらうぞ。」
「ああ!?ちょっと待ちない!」

 無視してエレベーターに近づく。すると、ボタンも押していないのにエレベーターは勝手に扉が開いて中にいる女と共に俺を迎え入れた。
 女。長い黒髪を着物のように、ドレスのように、下着のように、あるいは、素肌のように纏った女。
 そう、目的の女は既に俺の来訪を知っていた。

「そんなに鼻息を荒くなさって。悪い人ですね、狂矢さん。」
「椿ぃ!?」
「はい。お待ちしていましたよ、狂矢さん。フフッ、さぁ、部屋に行きましょうねぇ。」
「・・・。」

 俺は黙ってエレベーターに乗り込む。毒気を抜かれたというか何と言うか、不意を突かれて言葉が詰まって何を言いたかったのか忘れてしまった。
 そんな俺の手を、柔らかで温かい手と艶やかでしなやかな髪で椿は包み込んでくる。
 この温かみ、手放したくない。

「今日は早かったですね。お仕事が上手くいったのですか?」
「いや、そう言う訳じゃ。」
「フフッ、知ってますよ。」
「えっ?」
「知ってますよ。な・に・も・か・も
#9829;」
「な、何を言って、何がわかるって言うんだ!」
「フフッ
#9829;くふっアハ
#9829;あははははは
#9829;」

 突然笑いだした椿の表情は、黒く垂れた髪の仮面によってうかがい知ることはできない。
 だが、その仮面の下からチラリと見えた瞳に、俺は背筋がぞわりとするのを感じた。
 俺を見ている。顔は正面を向き、表情は隠れているはずなのに、その瞳だけは俺を見ていた。如何に頭を振ろうとも、如何に狂気じみて笑おうとも、その瞳は揺れることもなく俺を見つめている。見えないはずの、髪の裏側に隠された瞳には一体どんな思いが隠されているのか。
 見えないものに見られていると気づいてしまうことほど恐怖を感じる瞬間はない。
 俺は、咄嗟に握られた手を振りほどこうとしたが、彼女の手はマネキンの手の如く硬直して手が抜けない。万力の様な力で握られている訳ではないが、腕を強く振るって振りほどこうとしても一向に外れない。そして、そんなことを隣でやられていても、椿は笑うばかりでまったくこちらに顔を向けようとしない。
 狂っている。それに気づいても今の俺には逃げるすべはない。しかも、エレベータは目的の階に着いてしまった。

<チーン
「さぁ、どうぞ♪お楽しみの時間ですよ
#9829;」

 着いた階は、いつもの椿の部屋へと通じる階ではなかった。

「な、なんだこれは・・・?」

 壁の作り、廊下の広さ、蛍光灯の灯り、それらはいつもの階と変わりない。だが、この異様な光景はなんだ?

「んあぁ
#9829;あ
#9829;ア
#9829;イク
#9829;イグゥ
#9829;」「おぁあぁ〜し、搾り取られッぐっぅぅ
#9829;」
   「ほら♪ほらぁ
#9829;そんなんじゃまだまだよぉ
#9829;まだまだなんだからぁー!!」
                         「くそっ!クソッ!イケッ!イケッ!イケェッー!!」

「んちゅ
#9829;じゅる
#9829;おちんぽ
#9829;んちゅ
#9829;」
「お、ぁあっい・・・。」
「じゅるるる
#9829;れろりゅ
#9829;おしり
#9829;アナル
#9829;おいしっ
#9829;」

 廊下に並ぶ扉は、殆どが閉じられていない。中の声が丸聞こえだ。もちろん他の階と同様なら、それらの部屋はプレイ用なのだろうが、正常な使われ方はしていないようだ。何故って、交わってる客と嬢は、部屋の中だけではなかったからだ。
 全開の扉から足と長い爬虫類の尻尾がはみ出ていたり、廊下に置かれた椅子に縛られた男が対面座位で青肌と黒羽を持つ少女に嬲られていたり、壁に押し付けられた男がフェラチオされながら蛇の頭が付いた尻尾でケツ穴を犯されていたりしているのだ。
 いつもの閉じきった扉が並ぶ廊下とは、余りにもかけ離れすぎていた。

 異常だ。

 そんな言葉
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