「んっ・・・うん〜。・・・・・・うん?」
目が覚めると、薄暗い光の中にヨシノの顔が見えた。その背後には小さいがはっきりとした新円が見える。
「あら、起こしてしまいましたか?」
引かれた左腕から頭を撫でられていたのだと解かる。
「おはよう、ヨシノ。」
「くすっ、おはようございます、トーマ様。でも、外は深夜ですよ。」
意識にかかった霞が晴れて来ると自分の状況が解かり始めた。身体は横たえられ、ヨシノの柔らかな太腿に頭を乗せている。
その後ろに見えた新円はどうやら月のようで、本当に今は真夜中のようだ。次に横を見ると、暗いが木の洞のような壁と小さいが、水溜りのようなものが見えた。
「ここは・・・?」
「私の樹の中です。お礼の後、妹達は帰しましたが、一向に御目が覚めないので母に頼んでここまで運んでもらったのです。今夜はもう遅いので泊まっていってくださいまし。」
「そうか。では、お言葉に甘えて。」
「はい///」
そう言うとヨシノは、再び私の頭を撫で始めた。それにつられて私も再び目を閉じた。だが、一度起きてしまうとなかなか寝付けないもの。しばらくしんとした空間が続いたあと、ヨシノが語りかけてきた。
「トーマ様は本当に旅がお好きなのですね。」
「ん?ああ、好きという部分もあるし、仕事って言う部分もあるけどね。」
「それなのに私を愛してるなんて仰ってよいのですか?私はあなた様のお国で言うドリアードなのですよ?」
ヨシノは、先に私がした異国の話とそのお礼でのことを言っているのだろう。あれだけ熱の入った話し方をしていれば不安にもなるだろう。ましてや相手はドリアード。束縛しなければ愛情を示せない種族に旅人が愛の言葉を囁いたとて信じられるわけないか。
そんな考えを感じ取ったのか、はたまた、自分の質問への答えが怖くなったのか、ヨシノは急に寒くなった顔で、慌てた風に、
「あ、あの、今の話は答えてくださらなくて結構ですので。私は、今愛されているだけで、愛されていると思えるだけで幸せですから。」
と付け加えた。
「いや、そんなことで考えてたんじゃない。私は本気だよ。」
「そう言って頂けるだけで満足です。」
やはりどこか不安そうな顔をしているのを見ていると、私は自分がとんでもない罪人なのではないかと思えてきた。
(やはり、決めなければいけないか。)
俺は身体を起こすとある話をし始めた。
「・・・俺の故郷の話はしたよね?」
「え?あ、はい。」
ヨシノは急な口調の変化に戸惑った風だったがあえて無視して話を続けた。
「あれには続き、って言うかまだ言ってない話があってね。君達には言っても仕方がないと思って黙ってたんだ。」
そう、俺の故郷。俺の旅の始まり、自由を手に入れた場所。
俺の故郷はしがない国境沿いの漁師町だった。いくらかの魔物も混じって暮す平和な町だった。俺の親父も漁師で船の上で怒声を張り上げて、皆で網を引いていた姿を覚えている。母は昔、隣の国の教会にいたこともあり、俺や他の子たちに読み書きや計算を教えていた。
俺達の町はかなり昔は羽振りがよかったが、国が親魔物領に鞍替えしてからは隣町に売り込むこともできず鳴かず飛ばずになってしまったそうだ。
それも、俺が物心ついたときには隣の反魔物領との戦争が悪化、さらに成長したときには、支配国が1週間毎に親魔・反魔と入れ替わるようになった。当然、遠洋に出ることもできなくなった俺達はだんだんと貧しくなっていった。あるとき、町の近くで起きた戦闘が飛び火し、ついに町にまで兵が雪崩れ込んできた。町人は殺され、両親も死んだ。
それでも何とか生き残った者達はこの先生きていくためにあることをし始めた。売春だ。自分の子供や妻を兵士に売り、その金で生き残ろうとした。
反魔物領に支配されたときは、教会の目が届かないことをいいことに兵士に安く買われた。親魔物領の場合は、統率の行き届いてない傭兵相手に商売をした。
そして、それは男の俺も例外ではなかった。俺は引き取られた里親に売られそうになったので逃げ出した。
「こんなところにはいられない。自由をつかむんだ!」
そう思い立ったわずかに生き残った子供達は、奇跡的に残っていた一番大きな漁船に乗り込みわずかな食料と水を手に出港した。
遠ざかって行く町と目の前に広がるすがすがしい海と空を見て俺達は叫ばずには居られなかった。自由を手に入れた喜びを。
あのときのわけのわからない気持ちは今でも船に乗るたびに思い出す。それまでの一切の嫌なことから解放され、自分でもわからないわくわくした気持ちを今でも抑えることができない。
それが、私の始まり。新しい命の始まりだと思っている。
「あとは、先に話した通りさ。子供だけで何もかも上手くいくわけがない。親父の見よう見まねで何とかし
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