目玉焼き風焦げくず

 ゴルドを乗せた馬車が屋敷に着いたのは、薄暗い太陽の妖光が、輝くばかりの月光に取って代わられる夜半も過ぎた頃だった。そして、ゴルドはこのことに非常に立腹していた。
「まったく!夕刻前には城を出たというのにどう言う事だ!」
とゴルドが怒鳴ると、
「怒鳴ろうとどうされようと、進みませぬものは進みません。」
と執事長が冷静になだめるのだ。もうこのやり取りを何十回やったことか。
 なぜこの様な事になったかと言うと、レスカティエ名物とも言える稲荷・今宵の魔力球が、週末でもないというのに突然ゴルド達の進行ルートに落とされたからだ。それだけなら、まだ戻って迂回すればよかっただけだったが、落ちた場所がほぼ目の前だった事、たまたま落ちた場所が触手植物を多く扱っている露店街だった事、さらに今日はテンタクル・ブレインを大量入荷していた事が災いし、街道とその周辺の家々は突如発生した触手の森に飲み込まれてしまった。
 当然、ゴルド達も緑の波として襲いかかる触手に襲われた。その主な犠牲者である馬車の引手だったケンタウロス夫妻は、今は、裸で馬車を引いているが、正常な思考残しているのは妻の方だけである。テンタクルに指揮された触手がケンタウロスを拘束、高速に回転するブラシの様な触手で前後の秘部を磨き上げられた後、テンタクルに同じように拘束された夫と無理矢理交わらされていた。テンタクル達は似た様な夫婦を並べると、男性との交わりが如何に気持ちのいい行為なのか、じっくりねっとりとした観察を続けた。
 解放された時には既にあたりは暗く、それぞれのパートナーを得た彼女らは、観察のお礼にと旦那の方にマン・マリオネットを残して、家々の隙間へと消えていった。
 なので、夫は今も妻であるケンタウロスの前に触手を使ってへばり付き、精液を叩きつけている。もちろん意識はない。あれに耐えるケンタウロスはよほどの堅物なのであろう。
「あとで手間賃を弾みませんとな。」
 そう、執事長がつぶやく。
 彼にはこの国で生きる従者の気苦労が痛いほど解るのだ。夫がセックスにかまけて仕事をクビにならぬよう、必死に耐える姿に何らかの情が移ったのだろう。
 それに比べて、ゴルドはときたら、執事長とは対照的な苛立ちを滲ませた表情で外を見ていた。
「(私がこの程度のことで召使をクビにする鬼だと思っていたのか、こいつらは。)」

 そうこうする内に、馬車は屋敷の玄関へと着いた。
 扉を開ける筈の夫妻が、使い物にならない事は解っていたので、執事長が扉を開けた。
 ゴルドが降りると、夫妻はその場で交わり始めた。いや、正確には道中からずっと交わっていたのだが、今はケンタウロスが夫を下敷きにし、激しく腰(馬で言えば首部分だが)を振って犯していた。触手はあまりの圧力に逃げ出し、茂みへと散り散りになった。
「後でメイド達に片付けるよう指示しておきます。」
「よい。朝まで放っておけ。それよりも出迎えが一人も居らんぞ!どういうことだ!」
「確かに。誰かいないのか!」
<ガランッ!ガラ〜ンッ!
 執事長が呼び鈴を鳴らす。普段ならこんなことをせずともメイド達が門を通った時から待機し、扉の開け閉めから外套の受け取り、履き物の交換まですべて行うはずだが、今は玄関の灯りすら灯っていない。
 さらに二、三度呼び鈴を鳴らすと、やっと扉の向こうから、パタパタと誰かが走ってくる気配が感じられた。
<ゴ、ギイイイィィィィ
 重そうに扉を開けると、メイドの一人が顔を見せた。
「はいはい、どちら様?って執事長様?と、旦那様!?!?」
 慌てて扉を大きく開け放ち、脇に避けて頭を下げるメイド。それに向かって執事長は怒鳴り付けた。
「ロザリア!いったいどういうことだ!灯りは灯っていない!出迎えも居ない!おまけに旦那様がお帰りなると解っていてなぜ一人しか来ない!いったいお前達は何をしていたのだ!」
「も、申し訳ありません〜!つい皆で夢中になってしまったものでぇ。すぐにお支度を致しますぅ〜!」
「もうよい。それより、何に夢中になっていたのだ?正直申せ。」
 頭を下げたまま、ロザリアは小さな声で語り始めた。
「はいぃ。実は、奥様がお料理をさなりたいと仰られた為…。」
「なに!?料理とな!」
「は、はい!旦那様もご存知の通り、料理長が留守にしておりまして。それで、奥様が旦那様の為に手料理を食べさせたいと。」
「そんなことはどうでもよい!怪我はしとらんのか!?」
「それはもう!皆、細心の注意を払っておりますから!」
 ふぅ、と一息つくゴルド。よほど料理に危機感を抱いているのか、シャルロットが料理、と聞いて真っ先に思い浮かんだのが、シャルロットが包丁で指を切っているイメージだった。もっとも、植物型の魔物娘は、その由来ゆえに傷ついても血が出る訳でもないし、くっつけていれ
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