「はぁ、はぁ、はぁ、んっ、はぁ、んはぁ」
遠い遠いお空のそのまた上に、白く輝くお月様がミクを見下ろす。
冷たい乾いた空気がお化けのようにまとわりついて離れようとしない。
お化けを振り切る為に走ると耳元の風切り音が大きくなる。
お前が悪い、お前がいけないんだ、あやまれ、あやまれ
囁きが怒鳴り声になり、ワンワン鳴り響く。
ミクだって、ミクだって、こんなことになりたくなかった!
今日は、ミクの誕生日で、お友達とお誕生日会を開いた。でも、それはただの行実。お兄ちゃんを呼ぶ理由が欲しかっただけなの。
お兄ちゃんは、ミクの初めての大人のお友達。
優しくて、かっこいい、お兄ちゃん。
ミクがね、学校の帰り道にワンちゃんに吠えられたとき、誰も助けてくれなかった。
ほかのみんなは知らん顔。ワンちゃんの後ろを怖がりながら通りすぎるだけ。
友達も一緒にいたけれど、子供ばかりじゃどうしようもなかった。
その時、友達の一人がミクのお人形を取ると勝手にワンちゃんに投げつけた。ワンちゃんはお人形を咥えてその間に友達は逃げた。
取り残されたミクは、お人形を取り返したくて、でも、怖くて動けなくて、悲しくて。
しばらく膝を抱えて泣いていたら、誰かがミクとワンちゃんの間に立ってくれた。その人はワンちゃんを蹴っ飛ばすと、ドロドロになったお人形を拾ってミクに優しく笑いかけてくれた。その上、破けちゃったお人形の服まで直してくれた。
そのお兄ちゃんにミクは…。
あの日以来、お兄ちゃんとよく会うようになった。クラスのお友達とは話をするけど、もう前みたいに仲良くなれない。
ミクにはお兄ちゃんだけしかいない、そんな気がして。
お母さんと喧嘩して、寝なきゃいけない時間なのに飛び出してきちゃった。
だって、何かしないといけないと思ったから。でないと、不安だけが積もっていって、何もできなくなっちゃう。息をするだけでも、心臓が鐘みたいに鳴って苦しい。
嫌われるのが怖い、嫌われるのは嫌。
切れかけの電灯の下で、膝に手を当てて息をついた。
不安や、嫌な妄想を振り切る為に走り続けたけど、もう限界。疲れた。寒いのに、コートの隙間やマフラーの間から熱気がどんどん立ち上がって熱い。耳の奥でお胸が鳴ってる。ドクンドクンってうるさい。
目を閉じて、胸の奥の方に静かにお願いした。鳴りやんで、お願い、鳴りやんで!
お願いを聞いてくれたのかしばらくするとミクの胸はトクトク小さくなってくれた。
たくさんの空気が欲しくて、顔を上げると、見てしまった。
電灯の下はゴミ捨て場になってて、暗くて気づかなかったけど椅子とか扇風機とかいろんなものが捨ててあった。
そのゴミの中、埃っぽいソファーの上にあのお人形が座ってた。ミクの秘密のお友達。ミクに嘘をついたお友達。
汚れるのなんか気にしない。ソファーの前にあった棚を押しのけて、椅子を蹴って、扇風機を倒して、エリィを掴み上げた。普段はお人形さんにこんなことしない。でもエリィは別。
だってミクはね、とっても怒ってるの!
ミクが欲しいモノ、お誕生日にくれるって言ったのに!それはね、エリィがお誕生日会に来てくれたのは嬉しかった。でも、ミクが欲しかったのはあなたじゃない。ミクが欲しかったのは…。
「ねぇ、エリィ?なんで、なんで嘘ついたの?ミクが欲しいモノ、プレゼントしてくれるって約束したのに。」
言いたいことたくさんあったのに、うまく言えない。胸のモヤモヤがモヤモヤしすぎて口からうまく出てこないの。
それなのに、エリィはいつもと変わらない、綺麗なお洋服を着て、嬉しそうに笑ってる。それがもっとモヤモヤさせる。
あれ?エリィって笑ったお人形だったっけ?もっと、優しそうなお顔だったはずなのに。
「ごめんなさい、ミクちゃん。でもミクちゃんも悪いのよ?」 「エリィ!?」
「あーあ、ミクちゃんのせいで台無し。」 「どういう意味、エリィ?ミク、何も悪いことしてないよ!」
「いいえ、したわ。私の完璧な計画がおじゃんになっちゃったんですもの。」 「計画?」
「そうよ。私がプレゼントされて、喜んだミクちゃんがマス……、お兄さんに抱きつくでしょ?その時に、シちゃえばよかったのに♪」
「えっ?でもだって…。」
「それなのに、ミクちゃん、お兄さんにあんな態度。私の頑張りもなくなっちゃった。はぁ〜あ。」
「だって!教えてくれなかったじゃない!」
「教えたら意味ないでしょ?教えてたら抱きつけた?キスできた?」「うぅ。」
出来るわけない。会いに行くのが照れくさくて、いつもたまたま学校への道が一緒だからって言って、隠れて待ってたくらいなのに。
ミクが悪かったの?エリィがせっかくくれたチャンスを台無しに
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