「こんなのいらない!」
女の子が私を突き返しながら叫んでいた。振り乱す金髪のツインテールがとても可愛く、ロールを巻いたお嬢様風な私の髪型とは正反対だ。
突き返された男性は、若干戸惑っているようで、「うっ」とか、「あっ」とか言葉を漏らすだけでそっぽを向く女の子と私を何度も交互に見ていた。
女の子の母親らしき女性が女の子の肩を掴み、たしなめようとしているが、女の子は聞く耳を持たず、ずっと俯いて視線をそらしている。
それに気を病んだのか、男性が私を抱きかかえながら話しかけた。
「奥さんいいんですよ!僕が聞きそびれたのが悪いんです。…ミクちゃんゴメンネ。このお人形さんのこと、とても気に入ってたみたいだからお兄さん勘違いしちゃった。今度、別のプレゼントを持ってくるよ。」
「…キ、…ス、………がいい。」
「えっ?何がいいって?」
「…///。」
「…ふぅ、奥さん、それじゃ僕は帰ります。いえいえ!怒ったんじゃありません!単純に明日仕事なんです。御馳走様でした。…ミクちゃん、誕生会に呼んでくれてありがとう。今度のプレゼントには期待しててね。」
「………うん。」
「うん!それじゃ失礼します。」
男性は私を抱き抱えて玄関へと歩いていく。
抱き抱えられた腕の隙間から見えたのは、女の子が涙を溜めた瞳でこちらをチラチラと見ている姿だった。
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<コツコツコツコツ
夜の住宅街に革靴の音が響く。
彼は、女の子に、ミクに無下にされたことを気にも止めていない様で、キビキビと、おそらくは家路であろう道を歩いている。
まだ少しかかるかも。その間に私のことを少し話しておいたほうがいいでしょう。
もうわかっている人もいるでしょうが、私はリビング・ドール。空蝉の身体に魔力の肉を詰め込んだ肉人形。殿方の愛情に飢えた空っぽの魂。名前は、エリィ。
私は、あるアラクネが営む衣装屋の店先に戯れで飾られていた。アラクネが作る服には大なり小なり魔力が宿るので、私はそれを吸収して魔物として自分を産み直した。私の身体を造った人は誰かわからない。
衣装屋の店先で、私は学校に通う子供たちを見送っていた。
快活に跳ねて歩く魔物の女の子たち。それとは対称的に顔を赤らめて俯きながら女の子に引っ張られていく男の子たち。
それを羨ましそうに見つめながら、眠そうに目を擦る他の子たち。
ああ、助けてあげたい。
そんなに羨ましそうにしなくても、あなたの内側に眠る乙女の淫らさを現すだけで、ほんの少し、心をはだけるだけで、同じ様に成れるのに。
私はそれを知りつつも動けない自分に歯痒さを感じていた。
そんな時、この二人がお店の前で立ち止まった。
ミクちゃんに引っ張られるように、この人は私を覗き込んでいたっけ。当のミクちゃん本人も目を輝かせていた。
「素敵なお洋服…。」
そんな風に言っているのが聞こえた。そして、その裏に潜む早熟な思いも。
彼女を引き込むのは簡単だった。この年頃の娘は秘密の友達を持ちたがるもの。魔力の残り香で誘い、優しくて語りかけてあげるだけで、ミクちゃんはすぐに堕ちていった。
「こんにちは♪お名前は?」 「お人形がしゃべった!?」
「私はあなたのお友達だもの♪しゃべるのはあたりまえでしょ?」
「でも、そんなの…。」
「オナマエハ♪」 「はぁ、ぁ…ぁ、み、ミぃクぅ、ぁ、園山 ミクですぅぅ、ぁぁ…。」
「そう♪素敵なお名前♪私はエリィ。私たちお友達だよね?」
「はっ!?う、あ、あれ?あたし??」
「オトモダチダヨネ♪」 「う、うん、ともだち、オトモダチ。」
「一緒に来たお兄さん、かっこいいね。それに優しそう♪ミクちゃんの?」
「そっ!そんなんじゃない!ぜんぜん、、、ぜんぜん…///。」
「だいじょうぶ、お兄さんもミクちゃんのことが好きだから。私にはわかるもの。」
「ほんと?」
「ほんとのホント♪今度、お誕生日でしょ?だからよくこのお店に来るのよね?」
「うん、でも…。」
「ワカッテル♪ねぇ、ミクちゃんが欲しいモノ、私がプレゼントしてあげましょうか?」
「ほ、ホント!?」
「ええ♪でも、私のことはナイショよ?」 「うん!!」
フフ、本当に簡単だった。恋する乙女は盲目、とはよく言ったものね。
後は私を所有する理由さえできれば、すぐにこの衣装屋から抜け出せる。
でも私はミクちゃんの物にはならなかった。
イケナイ女ね。
ミクちゃんが大好きなお兄ちゃんを、味見したくなっちゃった♪
だからこ
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