考察

 三人は三つの幸運に助けられた。

 一つ目は、村で急患が出なかったこと。
 二つ目は、ずっと天気が悪く、訪ねてくる人がいなかったこと。
 三つ目は、エドがインキュバスに成り損なったこと。
 この三つだ。

 そうでなければ、三日三晩のセックスのシ過ぎで焼け落ちた小屋と診療所、全裸の魔物二匹と人間一人が見つからないわけなかったのだ。
 もう一つ付け加えることがあるとすれば、エルザの努力と悲しみと嫉妬心の賜物と付け加えるべきか。

 シェリーが前後不覚に陥り、完全に自らの制御を投げ出してから数時間後、エルザは目を覚ました。
 そして、目を覚ましてすぐに見えた光景に絶句した。
 破壊された廃墟の床で、吹っ飛んだ天井から降りしきる雨を受けつつ、激しく発光しながら身体を重ね、眠りながら犯すエド、犯されるボコ腹シェリー。雨水によって流れていく多量の精液が時間の経過を物語っていた。
 エルザは吸精によって戻った思考で、羨ましい!、とまず考え、次に、もったいない!、二人の結合部に口を付け、それから、このままじゃ見つかるかも?、と思考を巡らした。もちろん、三番目の考えは直ぐに消え去り、妬ましい思いを込めつつ精液を舐め取る奉仕に専念したのは言うまでもない。
 だが、結果としてその行動がシェリーの吸精を弱め、エドのインキュバス化を遅め、永久セックスマシーンを止めることに貢献していたのだ。

 快晴の天井の下、三人は座り込んでいた。
 エドは頭を抱えてあぐらをかき、その左にエルザ、右にシェリーが頭を乗せてくつろいでいた。全裸で。

「ああ、やっちまった。俺はこれからどうすれば…。」
「エド〜♪ウフフ♪エド〜
hearts;」
「う〜ん♪ま、気にしてもしかたがないさ♪」

 ダメだこの二人、エドは一層深刻な溜め息をついた。
 嫁は魔物になり、国内に魔物を匿い、自分自身も魔物と交わった。おまけに家も家財道具も焼けた。これ以上ないくらいに追い詰められた状況なのにこの二人の能天気度合いときたら。
 エドにはさらに溜め息を付くことしかできなかった。

「ほんとどうしたら。とりあえず逃げないと。あ、金も何もかも焼けちゃったんだった。逃げれもしない。うぅ〜。」
<コンコン
「ごめんよっと。」
「!?△■◎☆#$&!?」

 エドは心底驚いた。村人か、あるいは教団の兵士が現れたのかと思ったからだ。家が焼け落ちるくらいにバカみたいな激しいセックスをしていたのだ、バレてないと思う方が無理だ。
 だが、尋ね人は意外な人物だった。

「その様子だと賭けには勝ったみたいだな、え?旦那。」
「あ、あんたは!」

 エドが振り返った先には、あの墓守が立っていた。晴れだというのにレインコートを着込んでいるあたりがかなり怪しいが、その怪しさが間違いなかった。

「あんた、なんで俺の家に?」
「そりゃ、こんなことになってんじゃないかと思ってね。旦那、いくら連日天気が悪いからってヤリ過ぎだぜ。俺の家からでも見えてたぜ。」
「グッ!くぅぅ。で?どうする気だ?俺たちを憲兵に引き渡す気か?」

 エドの言葉に魔物娘たちも流石に体を起こした。目は、完全に獣のそれである。
 墓守はその視線に対し、「へっ!」と軽く笑ったあと肩にかけてきたカバンを投げてよこした。

<バスッ!
「うおっ!これは?」
「服に金に野宿にいりそうなもの一式だ。馬を峠道から外れた崖際に置いてある。そっから崖伝いに渡っていけば親魔領だ。」
「なぜだ、なぜこんな親切を?」
「言っただろう。この仕事をしてればいろいろ見ちまうもんだ。それに、これでも元教団兵でな。」







 外套を纏った三人は墓守に見送られながら街道を横道へと逸れた。
 墓守はエドたちを助ける理由を一切述べず、自分の素性すら明かさずに三人を送り出した。結局、名前すら聞けていない。
 最後まで怪しさたっぷりな男だったとエドは首をひねりながら支持された場所に向けて歩く。
 エルザとシェリーは、逃亡者でありながらまったく大人しくしようとせず、エドの両腕それぞれに絡みつき、放そうとしなかった。

「ねぇ、エド?」
「ん?」

 墓守に巡らしていた思考は、エルザの呼びかけで中断された。

「家にたどり着いたとき、私を殺そうとしたんだよね?それなのに今は一緒に逃げてくれる。その、後悔とかないの?」

 エルザに視線を下げるが、彼女は決して視線を合わせようとしない。
 そんな二人をシェリーは交互に見つめる。恩着せがましく言ってみたものの、やはり責任のようなものは感じているのだ。

「確かに、君を殺そうとした。あの時、俺は自分の贖罪をしたかったんだと思う。」
「贖罪?」「食材?」

「………。
 戦場で仲間を見捨てた罪を大切な君を自分の手で天に送ることで償いたかった。
 
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