満開

 ここに来てから5日が過ぎた。見極めは順調に進み、すでに幾つかの酒屋では試験的に大陸で商う様の酒樽を供給するように話が進んでいた。
 店主の話では、2年前からサクランボの不作が続いているらしい。在庫を消費したくないのだが、城主より全面的に協力するように触れがでているので仕方なく、と言っていた。
 城主が観光に目を向けざる得なくなったのはそういう背景があるのかもしれない。明日からは木材関係も調べていこうかと考えていると、目の前の桜に足をM字に開き、露骨に誘ってくるドリアードの姿が見えた。
 あの花見のとき以来、珍しい酒や工芸品を品定めするのが面白く、『姫様』のところには行っていないが、心なしか日に日に誘惑が露骨なものになっている気がする。別に忘れていたわけでも、趣味が合わなかったわけでもない。仕事が面白かっただけだ。
 山田殿がいつも城とは別の場所から通ってくるのでどこで寝泊りしているのか尋ねたら妻子の樹だと答えた。なんでも、解禁日から花見客が増え、『姫様』のとこでは家族の時間が過せないから『姫様』を通して妻子のいる樹で寝ているとのこと。
「花見か・・・」
 今は昼を過ぎたばかり、まだ先は長いのだから半日ぐらい休みを入れてもいいだろう。商人は直感が大事、思い立ったが吉日。私は、踵を返し、『姫様』の元へ向かった。すると、自然にヨシノのことを考えるようになり、一歩踏み出すごとに早く会いたい思いが募り始め、最後には駆け足になっていた。
 自分でも驚きである。一度、身を重ねた仲とは言え、これほどまでに思っていたとは。




「はぁはぁ、すうーはぁ、・・・これは・・・」
 息を整えながら『姫様』の元に着くと先日の花見とは比べ物にならないほどの人と魔物で溢れていた。皆一様に酒を飲み、料理に舌鼓を打ち、そして、乱れていた。
 人は魔物に甘え、魔物は人に垂れかかり、外とは思えない濃厚なスキンシップを見せていた。辛抱できなかったのか、すでに激しく互いを求め合っている者達もおり、まさに、酒池肉林の態をかもし出していた。
 この国の町人と思わしき者以外にも武士やさらに高位の大名の陣らしきものが見えることから、近隣諸国からの花見客だとわかる。本当にこの国は、産業も外交も『姫様』の威光に支えられているのだと改めて痛感した。しかし、そのようなことを思ったのは一瞬。今はとにかくヨシノに会うため、一直線で幹まで駆けた。
 中に入るとやはり人影が多かった。この中から一人のドリアードを探すのは一苦労だと思案していると「おい」っと声をかけられた。
 そこにはアカオニが、やはり裸で立っており、不適に笑っていた。
「私になにか?」
「きょろきょろしてるところを見るとあんた相手がいないのかい?なら、ちょうどいい。こっちで酒でも飲まないか?旦那と飲むのもいいがこう言う時はぱっとやらないとな!!」
 気持ちはありがたかったが、人もとい魔物を探しているので、と伝えようと口を開けたとき、
「あらあら、もうお相手を見つけてしまったのですか?」
捜し求めていた声が独特の仄かな香りと共に聞こえてきた。
「先日、また来てもいいかと尋ねたのは、私以外のお相手を見つけるためでしたか。そうですか・・・」
 いかん!これはまずい状況を見られてしまったか。誤解が広がらぬ内に説明せねば。
「ヨシノ、これは違う!待ってる間、酒でも飲まないかと誘われただけだ。決して疚しいことなど・・・」
「あらあら、よいのですよ。殿方は女を引きつけてこそですから。それに、樹の女などよりそちらのほうがお好みなのでは?」
「そんなことはない!なぁ、あなたからも説明してもらえないか?」
「あぁ、まぁ、なんだ。邪魔したな。それじゃ、お幸せに〜。」
 そんな言葉を残しながらアカオニは、戻っていった。いよいよ、そっぽを向いてしまったヨシノに困り果てた。かつて、勘定を間違えて大損害を出してしまった時よりも、確実にあせっていた。私は、ヨシノの正面に回りこみ、自分でも解かるるほどに弱弱しい声で、
「なぁ、機嫌を直してくれ。私が悪かった。約束した異国の話もたくさんしよう。だから・・・」
 勤めて冷静な声をしていたが、正面に回りこんだ時の若干不機嫌そうなヨシノの顔はまた違ったかわいらしさを持っていたと思ったが、今はそれどころではない。
「本当でございますか?」
「ああ!!」
「ふふ♪本当にトーマ様はかわいらしいお顔をなさるのですね。存じておりましたよ。最初から見ていましたから。」
「えっ?」
「トーマ様がいらっしゃったことは、中に入る前から存じておりました。ただ、驚かして差し上げようと隠れていましたら、あの方に先に声をかけられてしまい居ても立ってもいられなくなったのです。嫌な女でございましょう?」
「そんなことはない。むしろ、焼きもちを焼
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