「それじゃ、検温しますね〜♪」
隣の処置室から声が聞こえてくる。鈴のように通り、何処か上品さを漂わせるナースの声には、以前までの濁った雰囲気は感じられない。
昼前のヘイヴン村。すりガラスから差し込む陽光の強さから、今日も暑くなりそうなことがわかる。そんな陽光を浴びながら、カイン・ボードウィンは、目の前の患者の旦那の話をぼーっと聴きつつ、余所事に気を取られていた。
「(ええ!?お尻ですか!?そんなところで検温なんて…///)」
「(知らないんですか?こちらの方が正確に測れるんですよ?)」
「(でも…///)」
「(…やれやれ、何をやってるんだか…。)」
「あの、先生?それで、妻と娘の病気は何なんですか?」
旦那が心配そうにカインに訊ねてきた。パラパラと本を適当に捲り、視線を動かさないカインを訝しんだのであろう。
「え?あ、ああ、そうですね。奥さんの方はただの魔界熱。娘さんの方は魔物化による発熱ですね。
旦那さんの話を聞くに、娘さんを噛んだのは、おそらくラージマウス。奥さんは娘さんを看病しているうちに魔力に当てらてたのでしょう。
娘さんが奥さんに噛み付いたことはありませんでしたか?」
「ええ、噛んでる方が落ち着くからと看病している間、ずっと手を噛ませていました。」
「それが原因でしょう。奥さんの方は数日経てば完治しますが、娘さんの方は、魔物化を止める術は有りません。」
「はぁ、こう言う土地ですし、娘の事は仕方がないと思っていますが、苦しそうにうなされているのを見ていることしかできないのが辛くて…。何か方法は無いものでしょうか?」
「ああ、それに関しては…。」<ガラッ!ガシャン!
「…。」
「…。」
処置室から暴れるような音が聞こえる。恐らくナースがまた無茶なことをやろうとしているのだろう。ナースと結婚してから数年、カインは騒がしくもほのぼのとした開業医生活を満喫していた。相変わらず医者の仕事かどうかも解らない、性生活のお悩み相談が主流であったが、金払いはいいし、何より、ナースの方で対応してくれるので実質は何もしないでも生活費を稼いでいた。
「(ダメですよ?どうして逃げるのですか?ほら、娘さんはこんなにも大人しく検温を受けてるのに。)」
「(ああ
#9829;熱いよぉ、お母さぁんぁああ
#9829;お尻、すごいのぉおお
#9829;)」
「(でも、だって、お尻なんて///主人にも触らせたことないのに///)」
「(まあ!それはいけません!すぐに旦那さんに手伝って貰いませんと!)」
そう聞こえるとこつこつと靴の音が近づき、処置室と診察室を隔てていたカーテンが開けられた。勢い良く開かれたカーテンの前には淡いピンク色のナース服(と言うにはかなり露出が多いデザインだが…)を着込んだ女性が笑みを浮かべて立っていた。若く瑞々しい笑顔とは裏腹にナースは青白い肌をしており、とても健康的とは言い難い。それもそのはずである。「死んでいる人間」が健康的なはずがない。
ナースは、胸元から垂らした大きめのジッパーとそれについている可愛らしいクマのマスコットを揺らしながら旦那に近づき、処置室へ来るように促した。
「さぁさぁ、旦那さん♪ちょっとこちらに来て処置を手伝ってくださいな♪」
「わ、私がですか!?」
旦那は当惑した表情でカインを見つめるが、カインはため息混じりに首を振ると手を上げて処置室へと促した。
「心配はいりません。少し検温を手伝ってもらうだけですから、少しね♪」
「は、はぁ。」
言われるがままに旦那は処置室へと入っていった。そのあとに聞こえる戸惑いの声と熱のこもった声、ベッドが軋む音は、この診療所にとって最早予定調和である。
「(娘に1時間、奥さんに1時間、親子丼に2時間で4時間ってところか…。)」
カインがあの一家が占有するであろう時間を計算していると再び処置室のカーテンが開き、満足気な顔のナースが胸を張って出てきた。カーテンが開けられると奥からは激しい水音と喘ぎ声が漏れ出て、カーテンが閉められると多少くぐもって静かになった。
「また4時間コースだな。これで午前中の予定はパーだ。どうしてくれるんだ、イザラ?」
イザラと呼ばれた『ゾンビ』は肩まである銀髪をかきあげ、濁った目を不敵に歪ませて反論した。
「何も台無しになどなっていませんよ、先生♪だって、これからは私と先生の時間なんですから
#9829;」
そう言うと、イザラはただでさえ露出の多いナース服の前をはだけ、カインが座る椅子の上に跨り、そのまま膝の上に腰を下ろした。カインの目の前には青白い肌をした二つの双球が広がった。首元から正中線に添うように肌に直接縫いつけられたジッパーが胸の谷間、へそ、下腹部をぴっちりと閉じていた。イザラが誘う
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