奇襲

 小平太が失踪してから七日が過ぎた。村中を捜し、山狩りまで行なったが、痕跡すら見つけることは出来なかった。火がかけられ続け自然に消えたのであろう囲炉裏、開け放された戸、そのままの金銭、飲みかけの酒が入った升。最初は、酔って何処かで寝ているのだろうとも思われた。
 六郎田も必死で捜したが、見つけることは出来ず、とうとう今日、村長から捜索の打ち切りを言い渡された。もちろん、町へ行って人探しの依頼は出してくると言っていたがあまり期待は出来ないだろう。
 小平太を見つけられなかった不甲斐なさと、余りにもあっさりした村長の態度に六郎田は憤りを感じ、ここ二三日は深酒が続いていた。そして、今日も煽るように飲んでいた。

<トクトクトクトク、…ゴクッゴクッゴクッ、プゥハァー。
「かー!なんだっ言うんや、あの村長の態度は!いっくら昔、悪戯が過ぎたけんて、見捨てるこたぁないだろうがよ。」

 そう、ぶつぶつ文句をつぶやきながら酒を飲んでいると、ふと、戸を叩く音が聞こえた。

<トントン
「んん?誰や?」

 呼びかけても再び戸が叩かれるだけで返事がない。小平太が居なくなったばかりである。不審に思った六郎田は立て掛けていた斧を片手にそっと戸口へと近づいた。戸口では誰だかわからない者がまだ戸を叩いている。六郎田は、気づかれないようにそっと戸に手を掛けると一気に開け放ち、手にした斧を振りかぶった。

「おらああああああ!!」

「きゃああああああ!!」

 六郎田は、斧を掲げた状態で固まった。戸を開けると女が一人、腰を抜かしたようにぺたりと尻餅を付いていたからだ。小豆色の着物を着た女は、怯えた目で六郎田を見つめ返し、目に若干に涙を浮かべていた。

「おんしは誰や!なんの用や!」

「わ、わたくしは、旅の者でして、今夜、泊めていただきたいと思って…。」

「ああ?旅だぁ?今は時期が悪い。数日前に人攫いがあったばっかで怪しい奴は村に入れんことになっちょる。」

「そ、そんな、お願いします!このまま外に出されたのではわたくしが…!」

 六郎田は、斧を下ろし、改めて女を見た。頬や乱れた着物の隙間から見える女の肌は白く、そこらへんの遊女とは比べ物にならないほど美しい。潤んだ視線は、保護欲と嗜虐心を同時に煽り、劣情をもようさせる。これほどの上玉をみすみす逃がすのは、正直、惜しい。

「うーん。まぁ、今夜くらいなら泊めたってもええやろ。」

「本当ですか!?ありがとうございます。」

「(まぁ、お礼は体で払ってもらうがな。くくく!)」

「あ、あの…。」

「ん?」

「お手をお貸しいただけますか?腰が抜けてしまったもので…。」

 六郎田は、女を家へと招き入れ、話を聞くことにした。女は、町のある卸問屋で奉公していたが、主人のあまりに苛烈な仕打ちに耐え切れず逃げ出して来たのだと言う。見つかればただでは済まないが、ほとぼりが冷めるまで関所を抜けることも出来ない。今夜だけの約束であったが、出来れば数日匿って欲しいと、女は懇願した。六郎田も逃がすつもりはなかったので女の願いを快諾した。
 しかし、見れば見るほど美しい女であった。しっとりとした黒髪は、結い上げられておらず、長く背に垂らし、前髪は微妙に視線を隠すように伸ばしていた。胸は控えめであったが、少し大きめで形のいい揉みこたえのあるお尻に、灯りの近くで見る肌は、日焼けとは無縁の白さであった。六郎田は、舐め廻すような目線を止めることが出来なかった。

「ところで、あんた、名は何と言うんや?」

「名は…、その、今はまだ名乗りたくありません。どこで誰が聞いているか分かりませんから。」

「おいおい、これから匿ったろう言うのに名前も教えん気か?」

「ごめんなさい。」

「……まぁ、ええやろ。」

こうして、二人の奇妙な生活が始まった。



 女は、逃亡の身でありながら精力的に働いた。朝昼夕の飯の用意に洗濯、畑の手伝いはもちろん、山に入っては茸や山菜を採ってきた。六郎田は、次の日の夜には襲ってやろうと思っていたが、毎夜の豪勢な食事と女の酌の上手さにやられてしまい、酒に強いはずなのに襲う前に酔い潰されてしまっていた。いつも飲んでいる安酒は、自分の手酌だと味も酔いも薄い酷いものであったが、女が注いだ途端、ピリッとした辛味の効いた極上の酒になる。あまりの旨さについつい飲みすぎてしまう六郎田は、どうすれば酒の誘惑に打ち勝ち、女を手篭に出来るか頭を悩ませていた。

「くそ〜、あの女、わざとやっちょるなぁ。俺に手ぇ出す隙を与えん気や。やけどなぁ、あいつの注いでくれる酒は旨いけんなぁ。どうすっかなぁ〜。」

 そうぶつぶつ言いながら畑の雑草を抜く。女は山へ山菜を取りに行っており、畑には六郎田一人だった。そこそこの広さの畑を一人で耕して
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