むかーし、昔。ジパングのとある町では、女は夜であるいてはいかんと言われておった。何故なら夜に出歩いた女の多くが無惨な死に方をし、町中にその骸が捨て置かれると言う事件が起きておったからだ。
「はぁ、今日も遅くなってしまった。おかあ、心配しているだろな。」
ある夜、一人の娘が提灯の明かりをたよりに町中を足早に帰えんりょった。
娘は居酒屋の看板娘であり、いつも客にせがまれてはしゃくをしてやり、夜遅くに帰ることが多かった。
転ばぬようにと下ばかり見ていた娘は、目の前の闇の中に人が立っているのに気付かず、人影に呼び止められて初めて顔を上げたんだった。
「もし、娘さん、娘さん。」
「!!ど、どちら様ですか!?」
「怪しい者じゃあ、ございやせん。ただ、お頼みしたいことがあるんでさ。」
声と話し方から男だとは解ったが、顔は未だに影の中に隠したままで、辛うじて見える部分は、足元と流行りの柄とは違った地味な着物、そして、手に持った赤い提灯、ととてもではないが怪しくないとは言えぬ風貌であった。
「何でありましょう?」
「見ての通り、提灯の油が切れてしまったんでさぁ。最近は物騒ですし、男が明かりも持たずに歩いてたんじゃあ、お役人様に捕まっちまいます。少しでいいんで油を分けてもらえませんかい?」
そう言うと男は頭を下げながら提灯を差し出した。
男の言うことを聞いてやる義理はないと娘は思ったが、下らぬことでまとわりつかれても迷惑だし、自分も早く帰りたいと思っておったので、しぶしぶ分けてやることにした。
「はぁ、わかりました。少しでいいんでしたら。」
「ありがてぇ、ではもう少しこちらへ。そこでは遠くて移せませぬ。」
男に誘われるまま、娘は男の傍に寄っていった。
これがいかんかった。
娘が男のすぐ傍にまで寄った時、ヒュッと空気を切る音が聞こえた。
「えっ?」
娘は一歩も動けぬまま喉を真一文字に切られてしもうた。
「か!…!!…ケカッ!?…」
「けひひ!バカな娘だな。こんな夜中に油を切らすやつなどおるわけなかろう!!」
娘は必死に喉を押さえて声を出そうとするが血ばかり出てきてろくに声もあげれなんだ。それでも、逃げようとする娘を男は押し倒し、着物を脱がしにかかった。
「女は死ぬ前の締め付けが格別なのだ!しっかり楽しませろよ!」
「……!……!!!………」
娘はもはや動くこともできず、男が持っていた赤い提灯を見ながら死んでいった。
散々、娘の亡骸を犯した男は、娘の提灯から自分の提灯へと油を移しかえて火を灯した。
娘の返り血を浴びた提灯は一層赤く染まり、内側の明かりによって薄く、揺らめくような色を撒き散らしていた。
「今日も綺麗に染まったな。ああ、何て美しい色合いなんだ。お前は俺の自慢だ。」
男は手に持った提灯に話し掛けていた。すると不思議なことに男が話し掛ける度に提灯の明かりは強くなったのであった。
男は名を黄三郎と言い、下町長屋に住んでいる貧乏な張り職人であった。
黄三郎は、ある時なけなしの金で買った少女を誤って殺してしまい、その時から女を殺して死ぬ間際に犯すと言う趣味ができてしまったそうな。
そんな黄三郎の自慢は自分の作った提灯であり、内職で作った傘や提灯とは別に、真っ赤な提灯をいつも自慢気に眺めておった。
「ああ、なんと美しいのか。」
今日もため息混じりに提灯を眺めていた黄三郎はふと自慢の提灯の色が黒がかっていることに気が付いた。
「そう言えば、あの看板娘の血を塗ってから一月ほど経ったかのう。新しく塗り直さねばならんのう。」
黄三郎はそう思い立つと早速、仕舞ってあった合口を取りだし、丁寧に丁寧に研いでいった。
それからと言うもの、黄三郎は毎晩自慢の提灯と合口を手に町の中をうろうろとするようになった。しかし、看板娘の一見以来、娘達は決して夜に出歩こうとせず、また、見回りの数も増えたので一向に襲えない夜が続いた。
「くそ〜、こうも見回りが多いのでは襲おうにも襲えん!!」
一向に襲えず、どんどん黒ずんでくる提灯に黄三郎は焦っておった。もはや形振り構っておられんほどに焦っておった。
「こうなれば誰でもよい!次に来た女を……ん!?」
悶々とした気を落ち着けておると曲がり角から供を連れた娘が歩いてきた。
娘は高そうな着物に身を包み、供の貧相な男の灯りに先導されて歩いておった。
黄三郎はすぐに身を隠し、二人が物陰に近付くのを見計らって飛びかかった。
「おのれ賊が!!……ガハッ!!」
「き、キャー…んぐ!?」
「騒ぐなよ御嬢さん。まぁ、すぐに静かになるんだがね。」
供を切り捨て、すぐに娘を取り押さえた黄三郎は提灯を娘の喉元に近付け
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