「今日は臨時収入があったし、チーズとか買ってシチューにしてみたけどどうかな?おいしい?」
「・・・うん。」
「それにしてもあの毒毒しいやつがあんなに高額になるなんてびっくりだね!」
「・・・うん。」
「あの射的屋、絶対中になんか仕込んでたよね!全然倒れないんだものw」
「・・・うん。」
「・・・・・。」
街から帰ってきてからというもの、フェブはずっとこの調子である。
アレンも何とか元気付けようと話しかけるが、何を聞いても俯いて返事をするだけ。
それほどまでに羽虫香炉にトラウマがあるのだろうか?
食事にもほとんど手をつけないフェブにアレンは少し心配になった。
「(今日はもうだめだな)ちょっと早いけど、疲れたし、お風呂に入って寝ちゃおうか?」
「・・・うん。」
アレンは自分の分も食べ切らないまま、食器を片づけ、フェブのためにお風呂を用意し始めた。
「(まったく、あの商人め。怨むよ。・・・いや、僕が忘れてたのがいけないのかな?)」
フェブが自分に心を開いてくれたこと、自分自身も楽しかったことに舞い上がり、フェブがどうしてここにいるのかを忘れてしまっていた。
そのことがアレンを苛んでならない。結局は自分もこの街の人間なのだと。
「(はは、思ってたより最低だな、僕も。)」
(ポスッ
「うん?」
背中に人肌を感じて振り返る。すると綺麗な青い羽がランタンの光を反射してキラキラと輝いているのが見えた。
「・・・今日は、一緒に水浴びに行っていい?」
「フェブ?」
「おねがい。」
一人と一匹は小屋の近くにある小川へときた。
この小川は街へと流れ込む川の支流にあたり、アレンはここから水を汲んで畑を耕したり、生活に必要な水を得ていた。
一応、気を使ってフェブのほうを見ないように水の中に入ったアレンだが、すぐにフェブのほうからアレンに抱きついてきた。
「・・・離れないで。」
「フェブ。」
「・・・。」
小川は浅く、膝ほどの深さも無いのでアレンは岩に頭を預けるように寝そべり、その胸の上にフェブを乗せるように水に浸かった。
胸の上でパタパタと動くフェブの羽は吸収した精ですっかり元通りに治り、以前のよりも美しくなっていた。
「アレンの胸、あったかい。すごく、安心する。ねぇ、手もそえて。」
それでフェブが安心するならとアレンは優しく右手をフェブの上に重ねてやる。
フェブは指を抱きしめる。
「ごつごつしてるね。でも、あったかい。優しい感じがする。」
「そんなことないよ。僕は、僕もこの街の人間と変わらないよ。」
「それこそ違うよ!アレンは優しいもの!」
「いや、違うんだ。僕は、今まで魔物が街に居ることに疑問なんて持ったことが無かった。彼女達がどうやってこの街に来たのかも考えもしないで。
フェブのことも同じだ。フェブと行った祭りは、本当に楽しかった。
でも、それがどう言う祭りかなんて当たり前すぎてちっとも気に留めてなかったんだ。
だから、フェブに嫌な思いをさせた。
結局、僕の頭の中にはこの街の考え方が染み付いてて、当たり前に思ってしまうんだ。何も変わらないよ、僕も。」
「でも、それでも、アレンは違うよ。あたしが知ってる街の人達とは全然違うよ。」
フェブはさらにギュッと指に抱きついてきた。放せば失ってしまう。絶対に失くしたくない。そういった思いが伝わってくる。
「あたしね、捕まる前の記憶がおぼろげなの。」
「えっ?」
「もっと古い記憶とか自分のことは覚えてるんだけど、友達と遊んでた記憶とかそう言うの思い出せないことがあったの。
アレンと過ごしてたら段々と思い出してきて。
でも、あの香炉を見たら今度はそれが怖くなったの。また、忘れちゃうんじゃないかって。今度はアレンのことも忘れちゃって二度と戻ってこないんじゃないかって。」
羽虫香炉がそんなに危険なものだったことなどアレンはまったく知らなかった。だが、ここでは、あるいはここ以外でもそれらは普通に使用されておりその結果、フェブがここに居るのだ。
アレンはまた自分が情けなくなった。
「ごめん。そんな辛いことに気づけなかったなんて。」
「ち、違うの!そう言うことが言いたかったんじゃなくて・・・・・・・アレン、お願いがあるの。」
「な、何?」
「もう一回、あたしを抱いて欲しいの。絶対忘れないように。」
「フェブ・・・。」
フェブは魔力を使い、アレンの半分くらいまでの大きさに変身した。
アレンに跨るフェブは月明かりに照らされ淡く光っているようにも見える。羽から滴り落ちる水滴は燐粉を思わせるように光を反射し、透き通った羽をさらに大きく見せていた。
「(天使様にはあったことないけど、きっとこう言うのを天使みたいって言うんだろうなぁ。)」
「あ、あんまりジロジロ見ないで、その、恥ずかしい
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