「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
少年が走っていく。がやがやとした祭りの喧噪のなか少年が走っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
少年の手には小額の、しかし、少年にとっては多額の、金が握られている。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
少年は、走っていく。ただただ、走っていく。
今日は年に一度のお祭り。国中の『業者』が集まって数日に渡って、飲み、騒ぎ、商いをする。
「ちょ、すいません!通してください!!」
人混みをかき分け少年は市場へと急いでいた。歳はまだ若そうだが、貧相な体つきに、お世辞にも上等とは言えない服、ぼさぼさの髪が実年齢より老けて見せた。
押し合いへしあいしながら、少年は目的の市場に着いた。
市場ではすでに多くの露店が開いており、金持ち貴族が品定めを始めていた。
少年もあわてて店を回りだすが、
「高い・・・。」
どの商品も高く、少年のなけなしの財産ではとても手が届かない。
それでも諦めきれない少年は近くの『羽虫使い』に訪ねた。
「すいません、これだけで買える娘はいますか?」
「んん?・・・それっぽっちでは羽も買えんな。」
「そうですか・・・。」
「いや・・・、まてよ。」
羽虫使いは後ろに沢山並べている虫籠の山から一番奥においてあったものを取り出した。
「こいつならその値段で売ってやろう。捕まえたはいいが他の所でも売れ残ってな。」
その羽虫使いの話を聞いてか虫籠の中が騒いだ。
「だったらさっさとここから出してよね!!変態野郎!!」
羽虫使いは少年に虫籠を押し付けるとその手からさっと金を奪った。
「まいどありぃ〜。」
少年は虫籠を目線の高さまで掲げマジマジと中身を見た。
「な、何よ。私を選ぶなんて見どころあるけど、あんたなんかの言うことなんて絶対聞かないんだから!変態!変態!!」
青く透き通った綺麗な羽をばたつかせ、頬を膨らませて睨んでくる『ピクシー』を少年はマジマジと見ていた。
反魔物領ロシオール、人口は少ないが多くの貴族と商人が暮らす街である。しかし、反魔物領などとは名ばかり、実状はもっとひどい。
この街では例外的に魔物の売買が許されており、必然的に街には魔物が溢れている。
魔物たちは貴族たちの愛玩魔物か奴隷としてのみ存在が許されており、成金の商人にとっては魔物を買うことが一つのステータスになっていた。
少年はとりあえずピクシーを家に持ち帰り、机の上において様子を見ていた。
ついに買ってしまった。あの金は新しい薬草や野菜を育てるための運転資金のつもりで貯めていたのに、これでまたしばらくは貧乏暮らしだ。
それでも買ってしまった理由は、卸し先の店長に勧められたことと、少年に女性経験がなかったからだ。
女を口説くより、魔物を買った方が最終的安くつくと言いながら自身で飼っているラージマウスに乱暴にキスをしていた店長の姿を思い出す。
そんな風に思い悩んでいると虫籠が騒ぎだした。
「やい、変態!いつまで見てるつもりよ!さっさとここから出せ!!」
「せっかく買ってきたのになんで出さないといけないんだよ。」
「あたしは物じゃない!!勝手なこと言わないで!いいから、ここから出してよ!」
ピクシーがあまりにも暴れるので虫籠がガタガタと揺れて落ちそうになる。
「危ないッ!もう、暴れるなよ。」
「うるさいうるさい!あんたがここを開ければ済むのよ!この変態!!」
「変態変態、五月蠅いよ。僕は変態なんかじゃ・・・。」
「なによ!魔物を買おうだなんて変態の証拠じゃない!変態変態!べーだッ!」
ピクシーは舌を出して少年を挑発する。少年はあまりの五月蠅さに頭を抱えた。
「こりゃ売れ残るわけだよ。はぁ、どうしようかな?」
窓を見るとまだ明るい。仕事がまだ残っている。
「とりあえず、僕は仕事を片付けてくるから、大人しくしててよ。」
「するわけないでしょ!いいから出してよ!変態変態!!」
少年は罵声を背中に浴びつつ、畑に向かった。
「それで?お前さん、魔物は買ったのかい?」
店長は鎖で繋いだラージマウスを乱暴に引っ張りながら少年に訊ねた。
「買ったのは買ったんですけど・・・。何と言うか、お金が無かったんで売れ残りを押し付けられました。」
「がははは!おまえさんらしいや!」
街でも1,2を争う品質を誇るこの卸問屋の店長は少年の作る薬草を正規の値段で扱ってくれる唯一の人物。ラージマウスと彼女に孕ませた子供たちだけで店を切り盛りしている。
店を駆け回る子供たちの首にも母親同様の重厚な首輪がきらりと光る。
この街では魔物の子供は生まれつき奴隷なのだ。
「まぁ、魔物なんて値段じゃねぇや。いかに乗りこなすかだぜ。こんな風になッ!」
店長は鎖を手繰り寄せるとラージマウス
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