私が彼を始めて意識するようになったのは、血溜りの中に佇む彼を見てからだった。
「キャアアアアアアアアアア!!」
女の子の悲鳴が昼下がりの教室にまで聞こえてきた。他のクラスメイト達は皆、何が起きたのか見ようとこぞって教室から出て行った。
私は、興味が無かったし、どうせ嫌なものだろうと思ったので行きたくなかった。でも、そんな気持ちをお構いなしに他の娘達は誘ってきた。
「ねぇねぇ!行ってみましょうよ!」
「私は別に・・・。」
「いいじゃん?行こうよ!」
私は、その頃から何処から付いたのか知らない品行方正なイメージに悩まされていた。普段から品行方正、清廉潔白を求められているお嬢様達のグループに組み込まれてしまったからだ。
私の家は、そこそこ裕福なだけでお金持ちじゃない。彼女達の仲間に入るわけ無いのに彼女達は、まるで私がリーダーのように祭り上げた。
自分はただの御輿で、ただの隠れ蓑にされていることぐらいは解かった。でも、だからと言って、抜けることもできなかった。怖かったから。
だからその時も、嫌なのに無理やり合わせて見に行った。
どうやら、騒ぎの原因は、喧嘩のようだった。一人はクラスメイト、相手は学校でも時々名前が聞こえてくるぐらいの不良グループだった。しかし、喧嘩そのものは、すでに終わっているのか怒声は聞こえなかった。その代わり、ざわざわと落ち着きの無い観衆の声が聞こえてきた。
「おい、やべぇんじゃねぇか?」「誰か先生呼んだのか?」「あいつ、あんなやつだったのか。」
そんな不安を煽るような声が聞こえる。嫌だなぁ。見たくないなぁ。
「ちょっと、狭いわよ!どいて!」
取り巻きの一人が頼んでも無いのに前を空ける。その性で喧嘩の現場が目の前に広がった。
一言で言うなら凄惨と言う言葉が実によく似合う。
一人はへたり込み、ボトボトとあふれ出す鼻血を必死で抑えようと両手で鼻を覆っていた。
もう一人は涙を流しながら同じようにへたり込んでいたが、どう見ても両腕に間接が一箇所ずつ多い。
もう一人はうつ伏せに倒れ、ぴくりとも動こうとしない。
もう一人はお腹を抱えるように蹲っているが、彼の目の前に広がる嘔吐物を見れば何をされたかは一目で解かった。
「ひっ!」
最初に見に行こうと誘ったお嬢様はあわてて私の後ろに隠れた。そんなに嫌なら最初から見に来なければいいのに。
しかし、その時、私は別の人を見ていた。
その人は、額を中心に顔と前髪を真っ赤な血で染め、口の端を吊り上げるような笑みを見せながら四人を見下ろしていた。
本当は血なんて見たくも無いけど、その人には何故かとてもよく似合っている様に見えた。
何故だろう?恐怖心よりもゾクゾクする感覚が私の心を掴んで放さない。
先生に連れられて、その人が見えなくなってしまってもゾクゾクする感覚がしばらく抜けなかった。
それがはじめて、山田狂祐を知った瞬間。
その日から何度か男の人から告白を受けたけど、どうしても彼のことが頭から離れず、皆お断りしてきた。いつの間にか、品行方正の上にプライドが高く、冷徹、媚びてる女が嫌いなんてイメージが上書きされた。それでも私は自分を演じきった。
自分の影が怖かった。
しばらく経って、彼からの手紙が下駄箱に入っていた。嬉しかった。余りに嬉し過ぎて回りに取り巻きの娘達が居るのに手紙を開いてしまった。
「ちょっと!それラブレターじゃない!?」「すごーい!本当にこんな事する人いるんだ!」
「誰誰!?送り主は?」
「山田狂祐?」「誰?」
「ほら!この前の喧嘩の!うぇ、あんなのに目を付けられるなんて、かわいそー。」
「そうだ、いい考えがあるわ。伊藤さんも嫌でしょ?あんな、凶暴な人。絶対に諦めさせれるから(ニヤニヤ」
計画を聞いて、私はとてもじゃないけど同意できなかった。私自身、ラブレターが嬉しかったし、何より彼を悲しませたくなかったから。でも言えなかった。皆、彼を凶悪な人だと思ってる。そんな人が好きだなんて言ったら今度は自分が頭のおかしい人間と思われる。
怖かった。でも、同時に彼を怒らせて見たかった。
またゾクゾクとした感覚を味わえるかと思ったから。
「返事は、お・こ・と・わ・り♪」
「あんたみたいな乱暴なやつに告白されて私が受けると思ったの?馬鹿じゃない?折角、恋の叶う樹にまでお祈りしたのにねぇ〜♪」
「そう・・・か・・・」
えっ?それだけ?なんで?怒ってよ!怒鳴り散らしてよ!こんなに酷いこと言ってるのに何で怒らないの!?こんなの・・・嫌だよ・・・。
「うまくいきましたね。」「見てよ。あの情けない顔w」「彼の友達も下品な人ね。似たもの同士だわ。」
「そう・・・ね・・・」
私は嫌な気分でいっぱいに
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