三句「成人と幸運」

時は流れてもう二年が経った鶯山は暖かさを増した春が来た。
空は雲はあるが豆が降ることもないと思えた。

「今日も良い天気だなぁ〜……」

今年で成人となった修夢は一人で村に中を歩いていた。
彼を見るや村人は手を振ったり挨拶をしたりする。
彼の前を診療帰りの村を歩いていたシルビアが歩いていた修夢に声をかけた。

「領主様、御機嫌よう」
「あぁ、シルビアさんではないですか?」
「えぇ、成人おめでとう」
「有難う御座います」

シルビアは腕を組んでから微笑ましそうに彼を見る。
そんな修夢は頭の後ろに手をやってから頬を染めた。

「茉莉ちゃんとは上手くいってるかしら?」
「えぇ、おかげさまで。ただ、毎晩夜這いをかけられるのも疲れますね」
「ふふッ、良いじゃないかしら?そんだけ愛されている証拠です」
「まったく……妖怪と言うのは分からないものです」

二人は話をしつつ村を歩いていた。
そして、向かった先はシルビアの仕事場でもある診療所だった。
中に入ってはシルビアは中にある椅子に腰かけてから目の前の椅子を指さした。

「修夢、そこに座りなさい」
「はい、お願いします」

修夢は上半身裸になってからシルビアに背を向けた。
彼女は彼の背に手を宛がい目を閉じる。
すると彼女の手から緑色の光が出現したのだ。
これは大陸で言う魔法の一種だ。
今シルビアが使っているのは体の異常を探る散策魔法だ。

「うん、心肺ともに正常だけれど……心臓にある黒い蛇みたいな呪いはなにかしら?」
「それは僕でもわかりませんよ……ただ言えるのは先代たちと同じ呪いだと思います」
「そう……これが心臓に病を生み出した原因だと思って良いかしらね」

手を離したシルビアは椅子に深く座りながら腕や脚を組む。
彼女はため息交じりに修夢の顔を見る。

「呪いは私には直すことはできないわ。お祓いでも無理だと思う」
「そうですか……後二年の命、大事にします」
「えぇ、そうしなさい。それより……」

シルビアは彼の胸元を見てから首を傾げる。
彼女の表情はどこか嬉しそうだった。

「もう、彼女に伝えるのかしらね?」
「えぇ、そろそろです。それじゃあ……」
「はい、お疲れ様。御代は一か月後にでもお願いね」
「わかりました、それでは……」

彼が診療所を出た後にシルビアは大きく背伸びをしてから立ち上がる。

「幸せになりなさい……どんなことがあろうともね?」

誰も居ない診療所に彼女の声が響き渡った。

――――――――

修夢が出かけた屋敷で留守番をしている茉莉は部屋で横になっていた。
その表情は何処か浮かない顔をしていた。
それもそのはずで今年で彼と彼女は成人を迎えた。
つまりは修夢の余命が近づいてきているということだった。

「修夢……私はどうしたら良いの?」

彼女の目元から涙が溢れていた。
彼を助けることができない悔しさと彼との別れが近づいているということ。
この二つが彼女の心を大きく揺るがしているのだ。

「修夢……グスッ……私は……どうしたら……」

その場で蹲りながら自分の尻尾を抱きしめつつ顔を隠す。
彼女は幼き頃から修夢と共にいた為にこんなにも辛い宣告をされるとは思っていなかった。
しかし、彼女も緒方家に仕えることとなった今は泣くことはできない。

「修夢の前だけでも笑顔で居なきゃ……悲しむよね?」

彼女は起き上がり目元を袖で拭ってから両頬を叩いてから一息つく。
立ち上がり彼女は笑顔でこう言った。

「よしッ、頑張ろう……修夢の為にも」

彼女は襖に手をかけてから開けようとするが襖は別の者に開けられた。
彼女は首を傾げてから前を見る。
そこに居たのは彼女が先ほどから考えていた人物がいた。

「……ま、茉莉」
「……ッ、修夢」

二人は見つめ合いながら黙り込んだ。
修夢はそっぽを向いてから庭の方へと視線を送った。
茉莉はそんな修夢の背中を切なげに見つめる。
暫くの沈黙の後に修夢が破った。

「ねぇ、茉莉?」
「……なに?」
「……これを」

修夢は背を茉莉に向けたままで小さな包みを茉莉に見せた。
その茉莉は首を傾げて包みを手に取り包みを開けた。

「……し、修夢これは?」
「大陸の鍛冶が得意な妖怪が作った指輪だ」
「ま、まさか……」
「あぁ、その……僕の傍に居てはくれませんか?」

彼は背を向けたままでから茉莉に言った。
そう、彼は茉莉にプロポーズをしたのだ。
彼女の頬にはまた涙がつたりはじめた。

「ば、ばか……こんなの受け取ったら……」
「……返事が欲しい」
「もちろん……貴方の傍に居させてください」

茉莉は修夢に抱きついてから彼の背に顔を埋めながら笑みをこぼす。
修夢は微笑みながら青空を見上げた。
空には二羽の鶯が寄り添いながら空を飛んでいた。
茉莉は彼の前に手のひらを
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