現時刻は午後の四時半頃だろう。
俺は、玄関で靴を履いている最中だった。
リビングからメイスが出てきて俺の後ろまで来る。
「雄介さんどこか出かけるのですか?」
「うん。アルバイトに行かないといけないんだ」
「アルバイト……そうですか。きおつけて」
「あぁ、ありがとう」
俺の後ろでエンジェルのメイスが言う。
彼女の方を見て俺は気づいたことがある。
あの綺麗な指にはいくつかの絆創膏が貼られていた。
毎晩毎晩、小雪さんに教わりながら料理の勉強をしているのだ。
絆創膏は、包丁で切ってしまったのであろうことが分かった。
「それじゃあ、行ってきます」
「はいいってらっしゃい……あぁ、良かったら……」
「んッ??……お弁当?」
「はい、小雪さんに教わったもので作りました」
少し頬が赤いメイスは俯きながら俺に黒いバンダナで包まれたお弁当を差し出す。
出来立てなのだろうか、そのお弁当から美味しそうな香りが鼻を刺激していた。
ここで貰わないと彼女に失礼だと思いそれを受け取る。
「ありがとうメイス。それじゃあ……」
「はい、いってらっしゃい」
俺はメイスに手を振って玄関を出るのであった。
それから、三十分をかけてからアルバイト先のコンビニへとバイクで向かってから指定されている職員用の駐輪場にバイクを止める。
裏口にある職員用の出入り口から中に入ってから監視室に居る店長の元に向かった。
「お疲れ様です店長」
「おぉ、雄介……んッ??それは?」
「あぁ、家の者が作ってくれたお弁当です」
「ほぉ〜……」
椅子をまわして俺の方を見ている四十代ぐらいの中年の男性。
名前は榊正二郎(しょうじろう)、このコンビニの店長だ。
正二郎さんは俺が持っていたお弁当を見ていたので説明をした。
「そうかぁ〜……脩也の嫁が作ったのか?」
「いえ、最近一緒に住み始めた子が作ってくれたんです」
「そっか……彼奴も御節介な奴だな?」
正二郎さんは脩也さんの大学時代の先輩でもありサークル仲間でもあったのだそうだ。
だから、脩也さんと小雪さんの昔を知る数少ない人だ。
「それじゃあ、今から入ります」
「あぁ、わかった。商品の前だしをしててくれ」
「はい、わかりました」
俺は正二郎さんに頭を下げてからロッカーがある更衣室へと向かうのであった。
〜暫くお待ちください・・・〜
午後の八時頃になり俺は三十分の休憩を取ることにした。
俺は、更衣室に向かって自分のロッカーを開ける。
ロッカーの中にある物置場所にはメイスが作ってくれたお弁当がある。
それを持ち部活部屋とかにあるあのベンチに座り弁当箱を開ける。
「これは……美味しそうだ」
ベント箱の中身は白ご飯はもちろんのことで、生姜焼きにミニトマト、野菜を小刻みに切ったサラダが入っていた。
生姜焼きは少し焦げていたが気づいたことがある。
お弁当がまだ暖かいのであったのだ。
普通のお弁当は時間が経つにつれ冷めてしまう。
だがしかし、このお弁当は違うのだ。
最近のお弁当箱にはイグニスを嫁に持つ者が開発したお弁当箱である。
「どれどれ……うん、美味しい」
まずは生姜焼きを箸で掴み一口。
冷めてしまったお弁当も美味しいのだがやっぱり暖かい料理も美味い。
生姜焼きは、生姜の味もあるのだが少し甘かった。
甘口であるタレは小雪さんが教えたのであろう。
「美味しい……あれ??」
突然、俺の足元に何かが落ちた。
俺は頬に違和感を感じ、拭ってみると…。
「何で……泣いているんだ……俺?」
そう…俺の頬を伝っていたのは涙だった。
何だかとても暖かくて切ない感じがある。
涙が止まらなかった…だが、俺は生姜焼きを食べてゆく。
次第に涙が止まらなくなっていたのにも気づかないで俺はそのままお弁当箱を空にしたのであった。
それから、俺は職員用のトイレに向かってから手洗い場の鏡を見る。
「ちくしょ……涙がとまんねぇ……」
俺は涙を服の袖で拭って良くも涙は止まる気配を見せない。
俺は、とある記憶を思い出した。
父さんと母さんとの思い出だった。
「あぁ……そっか……」
俺は、鏡を見てから満面の笑みで見つめる。
鏡越しでは俺の父さんと母さんが微笑んでいた気がする。
「俺を最後まで育ててくれて……有難う御座いました」
俺は、涙を流しながら鏡に映る両親に言った。
―どういたしまして―
―元気に暮らしなさいね?―
「あぁ、俺は元気でいるさ」
―頑張りなさい……私たちの息子よ……―
鏡に映る父さんは微笑みながら言った。
母さんは泣きながら言っている…そんな感じがしたのである。
俺は、顔を洗ってから置いていったティッシュで顔についた水滴を拭いてから両頬を叩いて仕事に戻った。
時刻は午後の十時頃だった。
正二郎さんがコンビニ内にある時計を見てか
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