8、「影少女と本当の旅の始まり」

早朝を迎えた暗闇の中をユリは照らすものを使わずに歩いている。
手には血がこびり付いた一本の刀『白百合』が引きずられている。
フラフラと歩むユリの後ろには銃器を持った者や機能しなくなった機械兵が倒れているのだ。
ユリの服装がところどころ破れていて、倒れている者たちとの激しい戦いを繰り広げていたのだと物語っている。

「……ハァ……ハァ……」

ユリは盛ろうとする視界の中、体をふらつかせつつ肩で息をした。
服に付いた固まって黒くなった血飛沫の嫌な臭いと敵であった者たちの悲鳴が脳裏によぎった。
ユリは夜空を照らす早朝のぼんやりとした白い球が白くなったユリを照らす。
その姿は血で汚れており両手で持っている『白百合』は血が垂れるほどところどころ赤く光り、何処か悲しげだ。

「……お父……さ……ん……」

ユリは地に『白百合』を落としてその場で膝から崩れ落ちるように気を失った。
そして、そこを何かのエンジン音がして急に立ち止まった。
それは、この世界にはまずない軍人式ハンヴィーだ。
ハンヴィーのドアが開く音と共に何者かが近づいてきた。

「ユリしっかりしろッ!!」
「……しっかり」

ユリはぼやけてゆく視界で何かの耳と大きな鎌を見てから意識を手放した。
それに気づいたのだろう、軍服姿で水色の鎌が手についているマンティスの「セツ」はユリの胸元に耳を当ててから瞳を閉じて心臓が動いているか確認をし始めた。

「ど、どうセツ?」

心配そうにセツに尋ねるこちらもセツ同様に軍服姿で左目に眼帯をしたワーウルフの「ヴァン」は涙目になりながら言う。

「心配ない。ただ気を失ってるだけ」
「そ、そっかぁ〜……あぁ、良かったよ」

セツは微笑みながらヴァンに言うとヴァンはその場に大の字になって倒れた。
それからヴァンは、異臭がしたので森の中を見つめつつ赤外線式双眼鏡で見た。

「……人が沢山死んでる」
「黒蝶の連中と機械兵のようだね?全部死んでる」
「……ユリ」

セツは気を失ったユリを担ぎながらハンヴィーの後ろに乗った。
その後、ヴァンは地面に落ちている『白百合』を片手に森の中にあった『白百合』の鞘を拾ってから手を合わせてからその場を後にした。
そして、真剣な表情になってからこう呟いて…―――

「戦争を仕掛けようとしているのか……シューク」

――――――

あれから数時間が経った頃、ユリはのそのそと起き上がった。
周囲を確認すると、衣服が黒の軍服姿になっていて近くには『白百合』が置かれていることに気づいた。

「……ぶかぶか」

ユリは眠たそうに被せられていた毛布を剥いでから光が差し込んでいる先に手を伸ばしてから片手で目を隠しつつ開くと視界いっぱいに広がるのは大きくて吸い込まれそうなほどに美しい湖だった。

「……これは?」
「ようやく目が覚めたみたいだね?」
「この声は……ッ!?」

声のした方を向くとそこには巨大な魔界豚を片手で担いで微笑んでいるヴァンを見て目を見開いた。
ヴァンはユリを見てから優しく微笑んだ。

「久しぶりだね?」
「し、師匠ッ!!」

ユリは目くじらに一杯の涙を浮かべてヴァンの元まで走り抱き着いた。
抱き着かれたヴァンは「おっとッ」っと呟きユリの頭を青い狼のような手で優しく撫でる。

「辛かったろう?あんまり無理することは無いからたんと鳴いておきな?」
「うぅッ……うわああああああああんッ!!」

ヴァンは魔界豚を下してからユリを抱きしめた。
ユリはココロのダムが崩壊したかのように大声で泣き始めた。
それを木の上で微笑みながら見つめるセツと途中で合流し、軍服姿に着替えたカイが居た。

「非常に出にくい空気だ」
「……同感」

しかし、そういう二人は瞳から零れる涙を同時に吹きながらユリとヴァンの心温まるシーンを目に焼き付けた。
それから暫くして四名は魔界豚を使って料理を開始した。

「セツとカイは魔界豚を解体してくれないか?」
「珍しく師範が普通の言葉を話してる」
「……殺すぞ?」
「……ウィッス」

そう言ってヴァンはユリのバイクとカイの小型バギーをメンテナンスし始めた。
その頃、ユリは……―――

「……ふぁぁ〜ッ、気持ちいぃ〜」

湖の近くにあったのだろう露天風呂で寛いでいた。
ユリは、白くなった髪をタオルで包み、華奢な体に湯をかけてゆく。

「確かにこの湯は傷には効果がありそうですね?」

ユリは目をとろんとさせながら露天風呂を書こう石に背をくっつけてから大きく背伸びをした。
その時に、ぷるんッという効果音がありそうな小ぶりだが形が綺麗な胸が姿を現した。
ユリはドッペルゲンガーの中では一番の胸の持ち主であると嫌々確信してしまっているのだ。

「……また、大きくなってきたのかな?」
「……どれどれ?」
「きゃッ、師範ッ!?」
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