ユリと戦闘を行った機械兵が廃墟を徘徊している中を『天才科学者(マッドサイエンティスト)』は白衣を風に揺らしながら歩く。
彼女は、両手を白衣のポケットに入れてから前の壊れた機械兵を見つめる。
「私の芸術作品をこうもあっさりと壊されるのは好まないな。さて、あの少女をどうやって破壊(じっけん)してあげようかしら?」
壊れた機械兵に手を触れると、壊れた機械兵からは『指紋認証に成功。ただちに自己修復モードに移行します』と壊れた機械兵から聞こえた。
それを耳にした『天才科学者(マッドサイエンティスト)』は小さく微笑んでから影の方を見つめる。
「良い加減に出てきたらどうかしら?」
壊れた機械兵の影から黒の迷彩服に黒のコートを纏った男性が姿を現した。
そう、この者こそが『あの人』なのだ。
「相変わらずの実験熱心だな『天才科学者(マッドサイエンティスト)』?」
「いやいや、『あなた様』に比べたらまだまだよ?」
「ふッ、お前たちは撤退しろ。サンプルはもう手に入ったのだろう?」
「あぁ、『歩く銃器』の血液が付いた布きれを手に入れたからな……お言葉に前させてもらうよ?」
そう言ってから『天才科学者(マッドサイエンティスト)』は兵と機械兵に撤退命令を出して廃墟を後にしたのだった。
『あの人』はと言うと、迷彩服の胸ポケットに入っている煙草から一本取り出して口に咥えた後、煙草の先に火を灯してから煙を吐いた。
それから何かの気配を感じ取ったのだろう、『あの人』は後ろを振り返ってから優しく微笑む。
「やぁ、久しぶりだなユリ?」
「シューク、何で?何であなたがこの世界の破壊者に……」
『あの人』もといシュークと呼ばれた男性は微笑みながらユリを見つめる。
ユリは、怒りを表したかのように表情を強張らせてから拳銃を強く握った。
シュークは、怒りを表しているユリを見てから煙を吐きだした。
「その拳銃で俺を殺すことができるのかい?」
「それは、やってみないとわから……ッ!?」
ユリは何かを喋ろうとしているといつの間にかシュークが近くに居たのだ。
ユリはシュークの目を見ながら拳銃を構える。
「お前じゃあ俺は倒せはしないよユリ?」
「来やすく私を呼ぶんじゃないッ!!」
そう言ってからユリは拳銃をシュークに向けてから発砲しようとしているとシュークは、犬儒が握られているユリの手を優しく包んでから笑みを見せた。
「相変わらず、俺のことを父親と見てくれないんだな」
「私はもう、人間じゃない。でもお父さんって呼ぼうとして……お母さんをなんで殺したッ!!」
「……サキの死は俺の野望の始まりなんだ。だからこの手で葬ったんだ」
「それだけで……それだけでお母さんを殺したのかッ!!」
「死んだ娘の遺影にはもう話すことは何もない」
シュークはユリの首根っこを掴んでから思い切って瓦礫に投げつけた。
ユリは背中の激痛で「がはッ!?」と大量の唾を吐いてからその場に座り込んでしまった。
それを見たシュークはすまなさそうにしながらその場を離れた。
「し、しゅー……おと……さん」
ユリはそのまま歩いているシュークに手を伸ばしてから消えていきそうな声で呼ぶがそこでユリの意識は飛んだ。
――――――
ユリは一糸纏わぬ姿でいつの間にか真っ暗な世界で一人立っていたのだ。
ユリは周囲を見渡して、歩き始めると波紋がユリの足跡かのように広がってゆく。
「ここは何処?」
『ここは、アナタの夢の中よ?』
「……えッ?」
ユリは声がした方を向くが、そこには誰も居なかった。
しかし、そこには一輪に白い花が咲いていたのだ。
「は、花が喋ってるの?」
『いいえ、それは貴女の忘れたくない思い出が詰まったものだと思って良いわ?』
ユリは、花の方に歩いてゆきそれに手を差し伸べた。
少しのところで手を止めて声のする方を見てから微笑んだ。
『久しぶりね。私の可愛いユリ』
「お、お母さん?」
ユリの眼の前には、白いワンピース姿をした長い銀髪で緑の瞳をした美しい女性が立っていたのだ。
ユリは、目いっぱいに涙を溢れさせてから母親に抱き着いた。
その時に、真っ暗な世界は突然花びらが舞う桜の下で母親であるサキと同じワンピース姿に身を包んでからサキを見上げた。
「会いたかった。もっと早く会いたかったのに……」
「ごめんなさいねユリ?あの人も困ったものよね」
「シュークは父親じゃないもん。『あの人』って呼ばれるだけの犯罪者だもん」
「それでも父親なのは変わらないわよ?」
「うん、会えて少し嬉しかった」
サキは、ユリのその一言で微笑みながらユリを優しく抱きしめた。
その姿は、母親と娘が楽しそうに桜の下で抱きしめ合う姿は絵になるような美しさだった。
そして、サキはユリの方を見てから白い一本の刀を差し出した。
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