「ふ〜……なんとか抜け出せた……」
俺は衛兵たちが見張る門をなんとか突破することに成功したことに安堵の声を出して、抱えていた緊張感を解こすように息を漏らした。
「しっかし、意外とばれないものなんだな……この格好……」
後ろの今まで自分が暮らしていた城と今、俺が立っている城下を分ける門を振り返り、自分が城から抜け出せたことに安心感を覚え、心に余裕を持てたことで俺は今の自分がしている服装を自分で見回して思わず、控えめとは言え笑ってしまった。
なぜなら、今の俺の服装は侍女達が普段着ている城に仕える身として恥ずかしくない様になるべく品質のいい緑色の布地に白いエプロンをかけた給人服を着ている。つまりは女装しており、兵士や城内の人々は俺の女装にまんまと騙されたのだ。そのことに俺はおかしくて仕方ないのだ。
まあ、俺の身分のおかげで顔を余り知られていないことやまだ成長期を迎えていなくて男女の違いがはっきりと表れていないことや母に似た顔立ちをしていることもあって、ばれなかったのだろう。
だから……父上は俺のことを嫌っているんだろうな……
俺は自分が亡き母の生き写しとも言える顔に手を当ててつい、物思いに耽ってしまった。
前王妃であった亡き母によく似て、この国の王である俺の父は俺のことを嫌っている。
まだ、母が生きていた頃から王妃である母に対して、父が良い感情を抱いておらず、母のことを面白く思っていなかったことは幼かった当時の俺ですら察することができた。
母は主神教団の有力国の名門貴族出身で非常に教養深くて気品に満ち溢れ、美しい女性であった。何よりも母は貴族出身とは言え、人を身分の上下泣く対等に扱い、この国の王である父に対しても間違いがあれば物申す気概に溢れた人であった。
けれど、そんな母のことを父は煙たがっていた。この国は母の国と比べると田舎らしく、父は軍事力を強大化して近隣諸国を制圧していくばかりで母は父とこの国のそう言った行いを非難していたが、父は育ちの良い母の考えを毛嫌いした。元々、母と父の結婚は力を強めていく新興国であったこの国の国力に目を付けた母の出身国がパイプを作りたかったことと余り生まれや血統が好ましくない父がこの国の王室に神聖さを求めたかったことで成立したものだ。そこに愛など存在していないことは理解できていた。
そして、その母への嫌悪は母が亡くなると母に懐き、母の教育方針を受けていた俺に向けられるようになっていき、父は母が死んでから即座に新しい王妃を迎え、その新しい王妃に子供が生まれると俺を廃嫡しようと何度も工作を仕向けてきた。
巷では母は父に殺されたのではと言う噂すらあるほど、父は俺達、母子を憎んでいる。
俺が城から出たのは、そんな場所にいたらいつかと殺されると考えて、先手を打って逃げただけだ。
俺は父が大嫌いだ。
それは父が俺を憎んでいることもあるが、何よりも母がどれだけ憎まれても父を愛していたのに父はその愛を無下にしたからだ。
母がなぜ父に嫌われたり憎まれても父に忠言し続けたと言うと、それは父を愛していたからだ。父は力に溺れ、家臣や民は父を恐れ、誰も父に反対せず、父のもたらす暴虐によって生まれた悦楽のお零れに与かろうとする。けれど、母はそれでは父がいつか、独りになってしまうと悲しんだ。
父は母に対して、常に暴行を働いてきた。父と母が臥所を共にすると朝になって母が帰って来ると痣を身体中に作っていた。
フリード、いい?私は悲しいの。あの人がいつか王でなくなった時に誰もあの人のために泣かないことが……
俺が母のそんな姿を見て、いつも涙を浮かべて「どうして、母様は父様を許すの!?」と訊くと、常に母は父への祈りを込めてそう言っていた。
どこまでも母は父を愛していた。その献身が報われることなくともどこまでも愛していた。
でも、俺は母の愛を無下にした父に対して、母の様な広い心を持つことはできない。
そして、何よりも俺が城を抜け出しても生きようとするのは母が唯一、この世に残すことができた俺と言う存在が何も残さないで死ぬことなどできない。だから、俺は城を出ようと思ったのだ。
「と言っても……城から抜け出したとしてもその後はどうすればいいんだ……」
母の思い出を振り返り終わると俺は現実に目を戻し、これからの自分の身の振り方を考えた。
今の俺は身辺検査を突破して衛兵に怪しまれない様に金目の品も持たず、少しの額しかお金を持っていない。しかも、今の俺は女の服を着ており実はあまり落ち着かない。
王室にいても生命の保障がないかもしれないが、白から抜けだした後に野垂れ死になどしては元も子もない。
と言っても、たかが十歳の子供、しかも、女装している世間知らずの王子様が一般人として、どうや
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