賢王と国母

「王妃様、おはようございます!」

「あら、おはよう皆。今日も一日、よろしくお願いするわ。」

「はい!」

 日が昇ることなく、常に夜空に紅い月が輝き大地を照らす魔界において、朝にする挨拶を臣下一同からされて、私はそれに笑顔で応えた。
 そして、謁見の魔における二つある玉座の片割れの一つに座った。

「フリードは今日も寝坊だけど、気にしないでね?」

―アッハハハハハハハハハハハ!!―

 私がいつもの様に朝に弱い夫の子とをネタにして皆を笑わせようとすると臣下たちは大笑いした。
 王族を馬鹿にして大笑いあげるなど不敬罪で首を飛ばされかねないことだけれど、王族と言えどもこの魔界では平等な人間だ。それは昔の様に王族や貴族だけが特権の上で胡坐をかいて一般民衆を一方的に馬鹿にする時代は終わったことを意味している。王族が冗談を言ってもつまらなかったら無理に笑うことなく、臣下が別にご機嫌取りをすることもなく、王族が道具にされることもなくなり普通に人として生きることができる。本当にいい時代になった。
 と私が時代の移り変わりついて感慨のような感情を感じながら笑っている臣下を見ていると

―バタン―

 謁見の間の扉が開き、一人の人間がこの場に入ってきた。
 その音を聞くと、臣下たちは一斉に振り返ると

「すまない、また寝坊した……あはは……」

 この謁見の間の空いているもう一つの玉座の主が申し訳なさそうにしながら苦笑いを浮かべていた。

「またですか、陛下。」

「今年度になって、十四回目ですぞ?」

「まあ、陛下がこの態度のおかげで我らも気が休まることができますけどね。」

「いや〜……本当にすまない……」

 自らの主が遅刻してきたことに臣下たちは遠慮も躊躇いもなく苦言を漏らすが、主のそう言った緩めな態度のおかげで常に張り詰めることなく政務を行うことができることを心の底から理解していることから臣下たちは特段、彼を糾弾することはしなかった。と言うよりも彼のそう言った穏やかな性質がこの国においては臣下や民草にとっては誇りにも繋がっているのだろう。
 ちなみに国民にも彼の姿は知られているが、彼のあまり厳しくない領内経営や優れた領土整備、かつて、彼の父であり先代の王が行ってきた領土拡大政策からの現実的な領土発展政策、あらゆる芸術や文化を許容する彼の寛容的な政治政策から、国民からのフリードの人気は高い。
 むしろ、彼が怒るのはあまりに卑劣なことを行う人間のみにだけであり、彼が王族であろうと、そうでなくとも、彼の怒りは正しいものだと誰もが思う時にしか怒らない。

『我らがフリード王は法を以って国を治めるが、彼の方に裁かれるのならば、法がなくとも甘んじて受けよう。』

 それが私の夫にしてこの国の王であるフリードの国家全体からの評価である。
 私にとっては本当に誇り、敬い、そして、愛すべき夫だ。
 私は玉座から立ち上がると深く頭を下げた。すると、私に倣って臣下たちもまた、玉座へと続く道を開いて頭を下げて王を迎える準備を整えた。

―カツカツ―

 それを目にしたフリードは足音でしか把握することができないが、それだけで私はあの戴冠式で彼が見せたあの雄姿を瞼の裏で再現できるあの悠然とした獅子よりも勇ましく、鷹のように凛々しく、誰の目にも王だと見るだけで伝わる姿が私の眼頭を熱くさせる。
 そして、その威風堂々とし姿を彷彿させる靴音が近づいてきて、私の目の前まで来て止まると

「王妃よ、顔を上げてくれ。」

 と先程までの態度とは打って変わって、若いながらも古の賢君たちと比べても遜色ない威厳が込められた声音を以って、自らの妻でありこの国の国母としての責務を持つ私にそう言った。
 私は夫の言われるままに顔を上げた。すると、そこには短いながらも女性のものと見間違える程、美し滑らかな生糸の様な金髪とエメラルドの様に聡明さと慈悲深さ、活発さを感じさせる輝きを溢れさせた翠色の瞳を持つ愛おしい私の夫の姿があった。
 私はその愛おしい姿を見て、少しからかいたくなり照れ隠しと共に

「陛下がようやく、寝坊からお目覚めになられて嬉しい限りでございます。」

「なっ!?」

―クスクス……―

―プッククク……―

 私がにっこりとした笑顔で『寝坊』のことを冗談でからかうとフリードは顔を真っ赤にして、フリードを除く、この場にいる全員が笑うのを必死にこらえていた。
 しかし、ここだけの話、彼が毎回の如く寝坊するのは大半が私のせいである。正確には夜の交わりが原因だけど。

「う……まあ、いいじゃないか……では、今日の朝議を行う。
 まず、始めに教団国家との国境に関することであるが、何か変わったことはないか?」

 多少、恥ずかしさを感じたフリードであったが、すぐに王としての顔立
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